極超音速の中距離弾道弾
ロシア=ウクライナ戦争の最中の2024年11月、ロシアは新型ミサイルの「オレシュニク(Oreshnik)」を放ち、世界中の軍事関係者に衝撃を与えました。
なぜなら、それまで公式には保有が確認されておらず、既存の防空兵器では迎撃不可能とされていたからです。そんなオレシュニクとは、どのようなミサイルなのか?
まず、オレシュニクを日本語に訳すと、「ヘーゼルナッツの木」の意味になり、なんだかソフトな印象を受けるものの、実際はマッハ10以上で迫る極超音速兵器です。
また、事実上の中距離弾道ミサイルにあたり、一気に大気圏外まで打ち上がったあと、重力と慣性で放物線を描きながら、超音速で突入してきます。
さらに、約3,000〜5,500kmの射程を持ち、ヨーロッパ全域を狙えるほか、必要に応じて「核弾頭」も搭載可能です。
恐るべき速度と厄介さ
では、なぜ迎撃不能と歌われるのか?
ひとつは前述の速度です。
ウクライナの分析によれば、オレシュニクは最大マッハ11(時速13,500km)で飛び、ほとんど迎撃の猶予を与えません。ロシアとウクライナの距離を考えると、10分もかからずに到達してしまい、なおさら迎撃が無理でしょう。
別の例えをすると、東京からニューヨークまで50分、ロシアからNATO本部(ベルギー)まで17分で着き、発射を探知してから準備を整えても、極めて迎撃が困難なわけです。
たとえ弾頭を積んでいなくても、マッハ11の運動エネルギーだけでも、着弾地点に甚大な被害をもたらします。
この恐るべきは速度に加えて、オレシュニクは複数の弾頭を積み、別々で再突入させてきます。これは「MIRV(複数個別誘導再突入体)」と呼び、突入時に複数の弾頭を分離させながら、それぞれが別々の目標に向かう仕組みです。
相手はミサイル1発かと思いきや、複数の弾頭がバラバラで飛来するため、一気に迎撃の難易度がハネ上がり、その分だけ防空システムを圧迫します。
冒頭の2024年11月の攻撃でも、6つの弾頭から成るオレシュニクを使い、そこからさらに6つの子爆弾に分離しました。つまり、最終的には計36個の爆弾が降り注ぎ、ウクライナの防空体制を混乱させました。
そもそも、ウクライナが使う「ペトリオット」に限らず、THAADやSM-3などをもってしても、MIRVの迎撃は非常に難しく、処理能力の限界を超えてきます。
しかも、発射時はMIRVかどうかは分からず、疑心暗鬼の心理を生むととに、迎撃側を悩ませる厄介な兵器です。ひとつの弾頭なのか、複数を積んでいるのか、突入してくるまで分からない以上、迎撃側は翻弄されやすく、常に劣勢な状況を強いられます。
「幻のミサイル」の転用
そんなオレシュニクの出自を巡り、西側の情報機関がいろいろ分析するなか、「ルベーシュ」というミサイルの派生型説が有力です。
ルベーシュは大陸間弾道ミサイルの一種であり、過去5回にわたり発射実験を行うも、射程的に中距離核戦力の全廃条約(INF条約)に抵触したため、実戦配備を見送った「幻のミサイル」でした。
ちなみに、INF条約とは1987年にアメリカとソ連が結び、射程500〜5,500kmの地上ミサイルを全廃しました。ところが、アメリカはロシアの違反を理由にしながら、2019年に条約から離脱してしまい、そのまま失効して制限が消えました。
その結果、お蔵入りになったルベーシュの技術を使い、オレシュニクという中距離弾道ミサイルを開発・配備した形です。
幻のルベーシュとは違って、オレシュニクは量産と配備が進み、2024年11月の攻撃を皮切りに、少なくとも3回は撃ち込んでいます。
なお、最初はアメリカに事前通告を行い、核戦争のリスク管理をするとともに、NATOに強烈なメッセージを送りました。核弾頭を搭載できる以上、単なる通常兵器としてではなく、核の恫喝にも使えることを意味します。
2024年以降も実戦投入は続き、2026年5月に首都・キーウを空襲した際、ドローンの大群と他のミサイルに混じり、飛んでいる姿が確認されました。
量産が進んでいるとはいえ、現時点では在庫が少なく、そんなに多くは使えません。したがって、別のミサイル・ドローン群に混ぜ込み、相手が忙殺されているうちに、本命として隙を突いて狙う感じです。
精度はイマイチ?
一方、オレシュニクは迎撃の難しさに対して、命中精度は「いまひとつ」と言われています。
具体的な部品構成を見ても、確立された技術の応用にすぎず、最新技術の使用は多くありません。マッハ11という超音速を除けば、ゲームチェンジャーとまでは言えず、現在の量産体制をふまえると、大量配備も難しいでしょう。
そもそも、オレシュニクは実験的な要素が強く、あくまで試験兵器とされてきました。試験的な要素が強い以上、いまだ未知の部分が多く、なかなか評価が難しい兵器です。
ロシア側も純軍事目的ではなく、政治的なデモンストレーションに使い、現在は「核の恫喝」の一翼を担っています。
初回攻撃時こそ工場に着弾したものの、2回目以降は何を狙ったのかよく分からず、恫喝目的で使った線が濃厚です。
また、MIRVで複数弾をバラ撒くならば、そこまで精密兵器でなくとも、広範囲に打撃を与えられます。
本当の性能は未知数とはいえ、その存在が脅威であるのは変わらず、防空能力を飽和させながら、ヨーロッパ全域を射程に収める限り、NATOの抑止構造に揺さぶる兵器です。当然、日本も他人事ではなく、極超音速兵器への対処を急ぎ、迎撃体制を整えねばなりません。
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