旧式艦艇しかなかったが
北朝鮮は日本の仮想敵国のひとつにあたり、大規模な地上兵力を維持しながら、弾道ミサイルを開発してきました。核兵器とミサイルの開発は着実に進み、日本にとっては中国軍に次ぐ、あるいは最も大きな脅威かもしれません。
しかし、ミサイル以外は大きな脅威とはいえず、少数の特殊部隊と工作船、難民流入を除けば、日本に直接的な害を与えられません。
韓国と対峙する関係から、陸軍中心の戦力にならざるをえず、陸軍だけで100万人以上の戦力を誇り、予備役と民兵組織、警備隊などを動員すれば、その総兵力は500万人を超えます。
このように陸軍主体である以上、空軍・海軍は後回しになってしまい、戦えそうな近代戦力は100機もありません。
海軍の状況はもっとひどく、約750隻の艦艇のうち、ほとんどが沿岸警備用の小型艦艇であって、50年前の旧式艦ばかりです。潜水艦も80隻近くあるとはいえ、こちらも1950年代の超旧式艦が多く、とても現代戦には耐えられません。
すなわち、空軍は近代戦力が少ないうえ、その稼働率も低く、海軍は数こそあれども、全然あてにならない旧式戦力でした。これまでは。
近代艦船が続々と登場
北朝鮮海軍に限っていえば、ほぼ無視してもよかったものの、2010年代後半から状況が変わりつつあります。
金正恩政権はミサイル開発のみならず、海軍戦力の近代化も図り、2017年には新型コルベットが登場しました。「鴨緑級」といわれるなか、従来とは違うステルス性の設計を持ち、核巡航ミサイルも運用できるそうです(誇張はあるだろうが)。
この新型コルベット2隻に続き、2024年に建造中のフリゲートが公開されたところ、世界各国で大きな話題を呼びました。それはステルス化・大型化だけでなく、明らかに性能面の進化が見られたからです。
その外見はイージス艦に似ており、類似のレーダーを備える可能性が高く、北朝鮮版イージスといったところでしょう。
赤丸が新型レーダー?(出典:朝鮮中央TV)
まだ情報が少ないとはいえ、近代艦船を造っている事実は重く、その技術的進歩は新たな脅威を意味します。
悪いことに、この動きは水上艦艇に限らず、潜水艦にまでおよんでいます。古すぎる潜水艦群を変えるべく、国産潜水艦の開発に取り組み、2023年には「戦術核攻撃潜水艦」が進水しました。
旧式のロメオ級に基づきながらも、10基のミサイル垂直発射装置(VLS)を持ち、ある程度のステルス性を確保しました。ほかにも、2,000トン級の潜水艦を造り、弾道ミサイル発射能力があるとされています。
ただ、公開写真では船体の粗さが目立ち、就役後にトラブルが起きるなど、喧伝されているほどの実力はないでしょう。
水上艦にせよ、潜水艦にせよ、長らく開発できておらず、そのブランクを乗り越えるのは容易ではありません。技術面は言うまでもなく、北朝鮮は開発資金も乏しく、軍艦の自主建造は相当な難易度です。
ロシアの技術支援で脅威へ
いまだ発展途上ながらも、その脅威はさらに高まると思われます。
なぜならば、中国経由の支援に加えて、ロシアからの技術支援が増えるからです。
ウクライナ侵攻で消耗戦に陥った結果、ロシアは新たに露朝同盟を結び、北朝鮮の援軍と武器支援に頼ってきました。その代わり、北朝鮮に対して技術協力を行い、ミサイル技術の向上につながっています。
おそらく、この支援は海軍の近代化にもおよび、特に潜水艦建造に活かされるはずです。ロシアはソ連時代から高い潜水艦技術を持ち、もし本当に技術支援をしたら、その能力は飛躍的に進歩するでしょう。
戦術核攻撃潜水艦(出典:朝鮮中央TV)
北朝鮮は核抑止力の強化を狙い、すでに原子力潜水艦を建造しているそうですが、ここにロシアの技術が加われば、いきなり本格的な脅威が出現するでしょう。同じ潜水艦でも、ゼロベースからの試行錯誤と、ロシアの技術支援を得た場合とでは、その脅威レベルが全く異なります。
ロシアの立場をふまえると、しばらくは北朝鮮への支援が続き、それは海軍力の強化という結果にもなり、日本にとっては見過ごせません。
一方、中国も経済・技術支援はすれども、現在のロシアほどは露骨に行わず、一応は国際社会の顔色を伺ってきました。
中国側から見ると、北朝鮮は防波堤として役立ち、体制崩壊を避けるためにも、一定の支援は欠かせません。さりとて、「子分」としては制御が効かず、表立っての支援は制裁違反になります(ロシアはガン無視)。
アメリカへのけん制を考えた場合、北朝鮮は「駒」としての戦力強化を図りたいものの、あまり支援しすぎても問題になり、わりかしバランスが難しい存在です。
もう無視できない存在に
このように北朝鮮海軍の近代化が進めば、もう日本にとっても無視できなくなり、日本海側の警戒監視強化を余儀なくされます。
すでに日本海はロシアを警戒せねばならず、全体的には対中国で南西方面に注力するなか、ここで新たな脅威が現れるのは最悪です。
北朝鮮の主敵が韓国である限り、韓国海軍がメインで対処するとはいえ、イージス艦と原潜を造っている点は変わらず、日本海側に悩みが増えたのは間違いありません。
むしろ、中国よりも核兵器使用のリスクが高く、北朝鮮の原潜を絶対に見つけるうえで、海自の負担増は避けられないでしょう。
もちろん、まだ技術的には未完成なほか、国力的にはそう簡単に量産できません。それでも、ずっと停滞していた自主建造に取り組み、ロシアからの技術支援が見込める以上、もはや北朝鮮海軍の脅威は無視できなくなりました。

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