1個大隊分を輸送
アメリカは軍事力を世界展開する以上、いわゆる「戦力投射能力」を重視しており、空母と強襲揚陸艦を運用してきました。特に地上戦力をすばやく送り込み、紛争の早期収束を目指す場合、後者の揚陸能力は欠かせません。
空母に似た強襲揚陸艦は目立ち、上陸作戦の中枢を担うものの、米軍は他の揚陸艦艇を多く持ち、そのひとつがドック型輸送揚陸艦(LPD)です。
これは上陸用舟艇が収まり、そのためのウェルドックがある船ですが、通常の揚陸艦(LSD)とは違って、輸送力と航空運用能力を強化しました。そして、現在の最新型が「サン・アントニオ級」です。
- 基本性能:サン・アントニオ輸送揚陸艦
| 排水量 | 25,300t(満載) |
| 全 長 | 208m |
| 全 幅 | 38m |
| 乗 員 | 約360名 |
| 速 力 | 22ノット(時速41km) |
| 航続距離 | 約14,800km |
| 兵 装 | SeaRAM発射機×2 30mm機関砲×2 12.7mm機関銃 |
| 輸送力 | 兵員:700〜800名 |
| 艦載機 | 輸送ヘリ:4機 MV-22オスプレイ:4機 |
| 揚陸艇 | エアクッション型(LCAC):2隻 AAV-7水陸両用車:14両 |
| 建造費 | 2,000億円以上 |
アメリカは1980年代に揚陸艦の近代化を行い、その一環として「サン・アントニオ級」が研究されるも、実際の建造は2000年代にズレ込み、1番艦の就役には2006年になりました。
米軍の揚陸艦で初のステルス設計を使い、最も高いマスト部分は電波をはね返すなど、レーダー反射断面積(RCS)を抑えました。
気になる揚陸能力は申し分なく、特に車両搭載部分を拡張するべく、3層の車両甲板を設けました。ウェルドックは飛行甲板の下、車両甲板の後ろにあって、2隻のエアクッション型揚陸艇(LCAC)、あるいは14両の水陸両用車「AAV-7」を収容できます。
強襲揚陸艦とは違って、全通式の飛行甲板はないものの、後部に広い飛行甲板を確保しました。そこに輸送ヘリなどが降り立ち、数機を置けるほどの広さがあります。格納庫と飛行甲板の両方をフル活用すると、CH-46輸送ヘリならば4機、MV-22オスプレイも4機まで搭載可能です。
全体の輸送力でいえば、約800人の海兵隊員が乗り込み、戦車や装甲車などの装備品とともに、1個大隊分の戦力を運ぶ感じです。
一方、そのまま海岸に乗り上げることはできず、重量物を持ち上げるクレーンはないため、あくまで沖合いに展開しながら、最終輸送は揚陸艇と航空機に任せます。
1個大隊分の戦闘力を支えるべく、弾薬庫と物資用のスペースは広く、ガソリンとジェット燃料のタンクも備えました。さらに、5つの海水の淡水化装置を使い、4.5万リットル/日の真水を造れるほか、2つの手術室と24個の病床の医療設備により、簡易的な病院船として機能します。
なお、更新する「オースティン級」に比べると、兵員の輸送数では劣るとはいえ、船体規模は約1.5倍も大きくなり、車両・航空機搭載能力は倍になりました。
指摘された問題と改良型
ドック型輸送揚陸艦にもかかわらず、「サン・アントニオ級」は戦闘指揮能力が高く、指揮通信システム・情報処理機能の強化はもちろん、戦闘時の統合運用能力を重視しました。
共同交戦能力(CEC)を組み込み、リアルタイムで味方と情報共有しながら、戦況を効率的に把握できます。
当初はESSM防空ミサイルを念頭に置き、16セル分の垂直発射装置を設置予定でしたが、最終的には予算不足で削られてしまい、SeaRAM防空ミサイル、30mm機関砲だけになりました。
また、先述のステルス・マストも予算難を受けて、12番艦から通常タイプに変わり、コスト削減が図られました。その代わり、船体の磁気を低減させるなど、対機雷防御力を高めています。
マストが通常タイプに変更(出典:アメリカ海軍)
しかし、国防総省が独自の分析・評価をしたところ、脅威度が高い環境では不安が残り、適応性や生存性が低いとされました。推進機関の低い信頼性に加えて、操舵システム、換気システム、エレベーターに問題があるなど、艦内設備の欠陥を指摘しています。
2025年には沖縄において、2番艦「ニュー・オーリンズ」で火災が起き、消化活動で事なきを得るも、艦内設備の問題が再び指摘されました。
現在は「フライトII」なる改良型に取り組み、14番艦からは最新の「SPY-6」対空レーダーを含む、約200カ所以上の変更点が加えられます。指揮通信機能をさらに強化する分、格納庫と医療設備は縮小を図り、兵員輸送数は500人に減りました。
建造予定の26隻のうち、14隻が「フライトI」にあたり、残りが「フライトII」になります。ところが、いつものコスト高騰に直面した結果、建造費は2,000億円以上にふくらみ、予定通りに進むか分かりません。


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