陸上型イージスの代替
北朝鮮のミサイル問題に対して、日本はイージス艦とPAC-3による迎撃体制を構築しましたが、近年の度重なるミサイル発射実験を受けて、イージス艦の負担増と疲弊ぶりが表面化しています。
ただでさえ人手不足の海自をこうした過負荷から解放すべく、陸上版イージス、すなわち「イージス・アショア」を導入する計画が上がりました。秋田・山口の両県に配置して日本全国をカバーしつつ、陸上自衛隊に運用させることでイージス艦の負担を減らすつもりでした。
ところが、安全性への懸念と地元調整の失敗によって計画は白紙撤回されたのみならず、代替案として登場したのがイージス艦の追加建造でした。海自の負担軽減を目指したはずなのに、むしろ負担が増えるという本末転倒の結果になりました。
この新型イージス艦は艦隊防空ではなく、ミサイル防衛を主眼にした「イージス・システム搭載艦」という構想ですが、実質的にはイージス艦がもう2隻増えるだけ。
8隻から10隻への増勢でローテーション問題は少し緩和されるものの、新型イージスは垂直発射装置(VLS)を128個まで増やすなど、「まや型」よりもかなり大型化します。
ミサイル防衛重視を考えれば、VLSの数が増えるのは仕方ありませんが、基準排水量だけで1万トン近くになるのは確実です。
自動化・省人化によって乗員数を抑えるとはいえ、護衛艦が2隻増えるのは変わらず、人手不足の悪化は避けられません。
一応、省人化で乗員数は減るが・・・(出典:防衛省)
おそろしいのが、これでも当初案の半分ほどのサイズに収まっている点です。最初は基準排水量約2万トン、全長210メートルの巨艦を検討していたところ、「令和の戦艦大和」と揶揄されたすえに、現行案までスケールダウンされました。
それでも、1隻あたりの建造費は約4,500億円になりました(円高の影響もある)。これは「まや型」の2.5倍近くであり、艦載機を除けば、あの「いずも型」軽空母よりも高額です。
性能的には問題ない
船体の大きさと建造費の高さに対して、イージス・システム搭載かんは性能面では特段問題ありません。
というのも、イージス・アショアに使う予定だった新しい「SPY−7レーダー」をそのまま流用するからです。
最新装備を満載する新型イージス(出典:防衛省)
また、北朝鮮の弾道ミサイルであればともかく、極超音速ミサイルが相手となれば、地上配備型のイージス・アショアでは厳しかったといわれています。
この極超音速ミサイルを迎え撃つべく、日米両国は「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」というのを開発中です。しかし、このGPIミサイルは射程距離が短く、移動展開できるイージス艦の方が有利とされています。
このように新型イージスは性能的には問題なく、高まる脅威に対してはイージス・アショアよりも運用しやすい点もあるわけです。
ただし、海自の人手不足問題をさらに圧迫するのは変わらず、肯定的・否定的評価を下すかは視点次第といえます。
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