グローバル・パートナー国
米欧など32カ国が加盟する世界最大の同盟「NATO(北大西洋条約機構)」は、いまや単なる軍事同盟ではなく、欧州地域から戦争をなくして安定化を図る政治的基盤になりました。
そんなNATOは冷戦終結とソ連崩壊を受けて、地域外への介入や関与を進めてきた歴史を持ち、現在はインド太平洋方面への関心も示しています。これは主に中国を想定したものであり、日本や韓国、オーストラリアのように同じ価値観を共有する国々との協力を深めてきました。
すなわち、NATOは地球の裏側にいる西側諸国・民主主義国家とも連携しているわけですが、そのなかで最重要パートナーとなっているのが日本です。
これは国力や軍事力、地理的要因を考えれば必然といえる選択で、まさに太平洋同盟(日米同盟+α)と大西洋同盟(NATO)を結びつける役割を果たしています。
しかし、日本は同じアメリカの同盟国ではあるものの、NATOの正式加盟国ではなく、共通の利益・価値観に基づいて協力する「グローバル・パートナー国」という位置づけです。
これは国際人道支援や海賊対策、サイバー防衛など幅広い分野で協力するもので、近年は日本代表部の開設、自衛官留学生の派遣、共同演習へのオブザーバー参加など、協力関係が強化されました。
パートナー国には韓国やオーストラリア、モンゴルなどがいますが、日本は特に深い関係を結んでいます。これは前述の諸要因と合わせて、共同声明やNATO高官の往来頻度、さらなる関係深化に向けた最近の動向を見れば明らかです。
また、自衛隊はNATOの盟主・アメリカとの共同作戦を想定しているため、一部の戦闘通信システム、小銃弾を含む武器弾薬の多くがNATO規格になっています(韓国や豪州も同じだが)。
言い換えると、日本はすでにNATOと一定の互換性・相互運用性を確立している状態です。これはウクライナのように他国からの軍事支援が必要になったとき、とてつもなく大きな価値を持ちます。
加盟条件を満たせない日本
では、日本は正式なNATO加盟国になれるのか?
答えは「ノー」です。
その理由は集団的自衛権に基づく相互防衛義務を果たせないから。
NATOには加盟国が攻撃を受けたら、参戦してこれを助ける義務があります。ところが、日本は集団的自衛権の全面行使ができず、自国の安全保障に関わる範囲内で限られた相手にしか発動できません。
つまり、他の政治的条件はクリアできても、日本は「相互防衛義務」というNATOの基本要件を満たせず、現状のままでは加盟国として不適格です。
次に、日本は地理的に「北大西洋地域」「欧州地域」ではありません。
NATO条約の第10条では招待候補として「北大西洋地域の安全に貢献する地位にある他のヨーロッパの国」が明記されています。
したがって、東京にへの連絡事務所の開設が検討されたとき、フランスは「日本は北大西洋ではない」と反対しました(これを言ってしまえば、フィンランドや東欧諸国も北大西洋には面していませんが)。
とはいえ、明らかに欧州域外にあって、防衛義務を果たせない日本が正式加盟するのは無理筋な話です。対中国を考えれば、NATOとの関係は今後も強くなる一方ですが、現状で目指せるのは「準同盟」よりワンランク下の安全保障協力パートナーが関の山でしょう。
さらに、忘れてはならないのが、NATOはあくまで対ロシアを最優先する欧州向けの同盟であること。
ウクライナ侵攻で孤立したロシアが中国に接近するなか、NATOは日本との関係強化をより一層進めてきました。しかし、これはあくまで対ロシアから生まれた動きであって、対中国におけるNATOの全面介入はそもそも期待できません。
それでも、NATOの公式支持と軍事支援を取り付けるのは利益しかなく、日本としては日米同盟+αを基軸としつつ、同じ西側諸国の一員としてこのままNATOとの連携も深めるべきです。
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