能力強化とリスク分散
現代戦ではミサイル・ドローンが飛び交い、リアルタイムの情報共有が求められるなか、これらを支える高度な通信手段が必要です。
いまの軍隊が扱う情報量を考えると、従来の無線通信では対応しきれず、衛星システムを使った通信網が整えられました。なお、いち早く敵の動きをとらえて、監視するにも人工衛星は欠かせず、まさに「空の目」として優位性をもたらします。
これは日本も例外ではなく、他国に後れをとりながらも、近年は情報収集衛星の整備を進めてきました。ところが、衛星は高価値目標として狙われやすく、ひとつ失うだけで全体に影響を与えます。
それゆえ、いま打ち上げている偵察衛星に加えて、多くの小型衛星を宇宙に送り込み、「衛星コンステレーション」の構築を決めました。
衛星軌道上に多数の小型衛星を置き、常に広範囲をカバーするとともに、いざという時のリスクを分散します。どんなに優れたシステムでも、ある程度は冗長性を持たせた方がよく、その組織に欠かせない通信機能ならば、なおさら必要な対策でしょう。
中国は対衛星ミサイル、キラー衛星を開発中とはいえ、さすがに多数の小型衛星は潰せず、能力を保全する一定の保険にはなります。
そして、現代兵器は高性能になるにつれて、複雑な通信手段に依存しやすく、その戦力を滞りなく発揮させるべく、通信体制の抗堪性を高めねばなりません。
長距離ミサイルの誘導に使う
では、どのような衛星を打ち上げるのか?
小型衛星は運用中の光学偵察衛星とは違い、日本から長距離ミサイルを発射する際、目標まで導く「案内役」を務めます。それぞれ高度なセンサーを持ち、地上目標や水上艦艇の動きを正確にとらえながら、その情報を長距離ミサイルに連携する役目です。
さらに、AI機能で情報処理を効率的に行い、同時に複数の小型衛星を使えば、より確実な撃破を期待できます。この小型衛星網を構築するべく、2025年度末から打ち上げが始まり、2027年度には運用開始になる予定です。
商用の通信網を活用
ところで、多数の小型衛星で通信を確保する場合、民間の商用衛星も視野に入り、その代表例といえるのが、スペースX社の「Starlink(スターリンク)」です。
これはイーロン・マスク氏の下、6,000個以上の小型衛星を宇宙に送り、世界中にインターネット環境を届けてきました。特に戦場では大いに役立ち、通信インフラが破壊されるなか、ウクライナでその能力を証明しました。
ロシア=ウクライナ戦争を見ると、もはや商用宇宙サービスは当然のごとく使い、軍事作戦とは切っても切り離せません。たとえ主役にはならずとも、現行システムを補完する役割を持ち、その重要性は今後高まるだけでしょう。
日本ではKDDI社が提携を結び、離島や山間部に通信環境を届けるなか、2023年には自衛隊で実証実験が行われました。これは民間技術の活用を検証するものですが、Starlinkの使いやすさ、耐久性を試したそうです。
Starlink自体は持ち運びやすく、どこでも簡単に設置できるため、屋外での通信確保には適しています。実際のところ、野外演習や能登半島地震の災害派遣で使い、その有効性は認められました。
その結果、Starlinkは2024年に正式利用が決まり、海上自衛隊の練習艦「かしま」に搭載するなど、船内生活に「革命」をもたらしました。
されど、通信インフラを商用サービるに頼ると、その企業の意向に左右されかねず、ウクライナが悪しき前例になりました。
いまや戦場で必須にもかかわらず、アメリカと停戦交渉を巡って対立すると、スターリンクの接続切断をほのめかしました。それどころか、敵に座標位置が流出した疑惑が浮かび、「裏切り行為」として批判されたほか、一気に使用リスクが認識されました。
外国企業に依存している以上、安全保障上のリスクは変わらず、その実態をふまえながら、上手く商用技術を使うしかありません。自衛隊は主に生活環境面で活用しており、ほかの衛星通信網も検証するなど、ひとつに依存しない体制を目指しています。
ところが、数千個もの衛星を打ち上げて、それを安定運用するのはハードルが高く、JAXAのような政府機関でも困難です。
この点は「さすがアメリカの企業」という感じですが、現状では「日本版Starlink」をつくれる企業は見当たらず、ある程度は商用サービスを組み込みながらも、早急に衛星コンステレーションを整備すべきです。


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