初の国産155mm自走砲
ロシア=ウクライナ戦争で激しい砲兵戦が行われるなか、火力で劣るウクライナ軍は西側からの軍事支援が欠かせません。さりとて、自助努力を怠っているわけではなく、ウクライナも国産の155mm自走砲を「2S22・ボグダナ」を開発・生産しています。
- 基本性能:2S22 ボグダナ自走砲
重 量 | 28t |
乗 員 | 5名 |
速 度 | 時速80km |
行動距離 | 約700km |
兵 装 | 155mm榴弾砲×1 |
射 程 | 最大42〜50km |
発射速度 | 毎分5〜6発 |
価 格 | 1両あたり約5億円 |
2014年のクリミア併合・ドンバス紛争を受けて、ウクライナ軍は急速な近代化を図り、NATO式の兵装や訓練、編成を取り入れました。その一環として、NATO標準の155mm自走砲を作り、2021年には発射試験までこぎつけました。
このボグダナ自走砲は6輪駆動のトラックを使い、フランスのカエサル自走砲などと同じく、装甲防護力よりも機動力を優先しました。つまり、現代砲兵戦に適応すべく、シュート・アンド・スクート戦術(反撃される前に移動する)を強く意識した形です。
その荷台には155mm榴弾砲を載せており、NATO規格の射撃管制システムと20発の砲弾を搭載しています。
気になる射程については、通常弾は最大42kmまで届き、ロケット推進弾を使えば50kmまで延伸可能です。さらに、GPS誘導式のM982エクスカリバー弾も撃てるため、旧ソ連火砲よりも高い精度を期待できます。
初期型は自動装填装置がついておらず、現場の熟練度に頼っていましたが、その後登場した改良型は自動装填式となり、発射速度は毎分5〜6発とされています。これは他の西側自走砲と比べても劣らず、射程距離と合わせれば十分すぎる性能です。
一方、その車体は簡易的な装甲しか持っておらず、小火器や至近弾の破片から守るのが限界でしょう。このあたりは他のトラック式自走砲にも通じるもので、敵の反撃前に逃げるのを前提とする以上、装甲を犠牲にするのは仕方ありません。
戦時中でも進む量産
ロシアの脅威を受けて作られたとはいえ、2022年2月の侵攻時には1両の試作品しかありませんでした。このとき、敵に奪われるのを防ぐべく、工場でそのまま破壊されるところでしたが、なんとか避難させてウクライナ軍に渡りました。
この試作車両まで使う苦しい戦いを強いられたあと、ようやく2023年初頭に量産が始まり、現在は月産16両というペースで進んでいます。
すでに20〜30両が運用されており、最前線で激しい地上戦を繰り広けるなか、ロシア軍の攻撃で少なくとも7両を失いました。ただ、西側からの供与兵器と違って、自国で生産できることから、ある程度の損失はウクライナ自身で埋められます。
そして、デンマークなどの西側諸国が費用を負担することで、その生産体制を支える構図もできあがりました。
自走砲として特に高性能ではないものの、自国生産が可能なことに加えて、デジタル化された射撃システム、NATO規格の砲弾が使える利点は大きく、西側からの軍事支援をそのまま活かせる国産兵器になりました。
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