イスラエルのダビデスリング防空ミサイルの射程や性能は？

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中距離以上の脅威に対応

イスラエルは周りを敵に囲まれたあげく、定期的にハマスやヒズボラのロケット弾が飛んでくるため、高性能な防空兵器をアメリカとともに開発してきました。

その代表例といえば、ニュースでよく聞く「アイアン・ドーム」ですが、他にもいくつかあって、アイアン・ドームは多層的な防空体制の一部にすぎません（最も出番が多く、いちばん活躍しているが）。

今回はアイアン・ドームのひとつ上層にあたり、アメリカのパトリオット・シリーズに匹敵する「ダビデスリング」を紹介します。

まず、ダビデスリングという名前は旧約聖書に由来を持ち、それはダビデという少年が巨人兵士のゴリアテを倒した話です。

ダビデはゴリアテに石をぶつけて倒したのですが、このとき使われたひも状の投石器が「ダビデのスリング（David’s Sling）」になります。小さなイスラエルを多勢の敵から守るべく、この逸話にあやかったわけです。

ダビデスリングの発射（出典：イスラエル軍）

そんなダビデスリングはパトリオットやホーク・ミサイルに代わるべく、イスラエルのラファエル社とアメリカのレイセヨン社が共同開発しました。

アイアン・ドームでは対処しきれない目標、とりわけ中・長距離ロケット弾を撃ち落とすのが役目ですが、性能的には短距離弾道ミサイルまで迎撃できます。

すなわち、アイアン・ドームのロケット弾や巡航ミサイル、ドローンに加えて、短距離弾道ミサイルまで撃墜できるのがダビデスリングです。ただし、中距離以上の弾道ミサイルは対応できず、そちらはもうひとつ上の防空システム「アロー2/3」に任せます。

イスラエルに限らず、対処範囲に応じた地対空ミサイルが用意されますが、ダビデスリングはそんな多層防空体制の真ん中部分を担う形です。

12発入りの発射機と多機能レーダーで作るシステムは、車両による機動展開性に加えて、最大300kmの射程距離を持ち、理論上はひとつでイスラエル全土をカバーできます。

また、アイアン・ドームと同じく、複数の目標に同時対応できることから、性能的にはパトリオットの後継として申し分ありません。

その展開にあたっては、防空司令部の指揮統制システムにつなげますが、通信途絶に備えて、独立した迎撃管制システムも与えられました。

ダビデスリングの発射機（出典：イスラエル軍）

ミサイル本体は2段式となっており、自らのレーダーと光学センサーで目標をとらえつつ、赤外線装置などで敵とデコイを識別します。そして、超機動ともいうべき機動性を誇り、細かい微修正や加速を行いながら、そのまま目標に直撃する仕組みです。

2012年には発射試験を行ったものの、その後は予算不足から配備が延期になり、運用開始は2017年からになりました、

2018年にはシリアの短距離弾道ミサイルを撃墜すべく、合計2発が発射されましたが、実際にはイスラエルを狙ったものではなかったため、自爆指令が送られました。ところが、このとき1発が何らかの不具合で自爆せず、シリア軍に回収されたあと、ロシアの手に渡ったそうです。

いきなりミサイル技術が漏れたわけですが、ダビデスリングの性能自体に問題はなく、2023年には長距離ロケット弾やイラン製の対地ミサイルを撃墜しました。

2024年10月のイランによる大規模攻撃でも、防空戦に投入されたようですが、こちらはアロー2の出番が多く、ダビデスリングの具体的な戦果は分かりません。

さすがに200発以上が立てつづけに飛来したため、全てには対処しきれず、撃ち漏らしが発生しました。もちろん、これはダビデスリングに限ったことではなく、全ての防空システムに共通する話です。

それでも、実戦経験があって、それに基づくアルゴリズムの更新や性能強化を見込める点では、防空兵器としての価値はあります。

ただ、ミサイル本体はパトリオットより安いとはいえ、1セットあたり約450億円はかかり、そう簡単に買えるものではありません。

現在の運用者はイスラエルのみですが、すでにフィンランドへの導入が決まり、他にもオーストラリアなどが関心を持っています。さらに、ダビデスリングとPAC-3の技術を組み合わせて、新しい防空システムを作る動きもあり、今後の行方に注目です。