自衛隊の野外炊具1号/2号とその改良型、価格について

野外炊具1号 陸上自衛隊
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最強の炊き出し道具

陸上自衛隊といえば、普段から野外で厳しい訓練を行い、災害派遣では真っ先に駆けつける存在です。自己完結型の組織を目指す以上、陸自はインフラから衣食住まで自前で準備しますが、そのひとつが野外での温かい食事の提供です。

山中での訓練にせよ、被災地での救援活動にせよ、温かい食事の果たす役割は大きく、現地部隊の士気を維持したり、被災者をひと安心させてきました。

このとき、必ず活躍するのが「野外炊具」であって、日本が世界に誇る秘密兵器ともいえます。メディアに紹介される機会が多く、災害派遣から防災訓練にいたるまで、ある意味で最もお世話になっている装備品です。

そんな野外炊具には1号、2号に加えて、それぞれの改良型があります。

  • 基本性能:野外炊具1号/2号
野外炊具1号 野外炊具2号
重 量 2,500kg
全 長 4.59m
全 幅 2.31m
全 高 2,74m
装 備 かまど×6 かまど×3
炊事能力 最大250人分の食事 最大50人分の食事
価 格 約750万円(改良型) 約120万円(改良型)

どれも移動式の調理器具ですが、1号が200〜250人分の食事を作るのに対して、2号は約50人分の調理能力にとどまり、1号のかまど部分を独立させたような感じです。

まず、野外炊具1号の配備は1960年頃から始まり、1トンのトレーラーに6つのかまどがあるほか、野菜類のカッター、ジャガイモ用の皮むき器などを備えました。

炊事にはガソリンエンジンを使い、かまどはご飯を炊くだけでなく、炒め物から揚げ物、煮物、汁物まで対応しています。釜の使い道はメニュー次第で変わり、極端な例をあげると、ご飯だけならば最大600人分、みそ汁は1,500名分まで調理可能です。

なお、カッターは1時間で375kgの野菜を切り、皮むき器とともに時間短縮を実現しました。その結果、1時間足らずで200人分の食事を作り、カレーからパスタ、トンカツ、唐揚げなど、ひと通りの献立を提供できます。

野外炊具1号(改)野外炊具1号(改)(出典:陸上自衛隊)

この1号でさえ万能調理器ですが、「1号(改)」では冷蔵庫と貯水・給水装置、自動点火機能が加わり、操作性と全体の作業効率がよくなりました。

さらに、最新型の「1号22改」ではかまどが分離可能になったうえ、安全対策の火災防止機能を強化したり、火力調整を簡単にすべく、操作方法がダイヤル式からオン・オフ式、上げ下げ式のボタンになりました。

野外炊事班に配属される人のうち、人生で初めて料理する者も多いため、調理失敗と士気低下を防ぐ意味でも、なるべく簡単に操作できたり、各機能が分かりやすいことが重要です。

2号は小型・分割版

一方、野外炊具2号は3つのかまどを持ち、給水装置や発電機と組み合わせながら、約50人分の主食・副菜を1時間以内に調理できます。

基本的な調理能力は1号と変わらず、各部分を独立・分解した小型版のイメージです。

野外炊具2号野外炊具2号(出典:陸上自衛隊)

それゆえ、1号のように車両に集約するのではなく、各器具を持ち運ぶ形になり、移動時は手間がかかりました。その後、「野外炊具2号(改) 」では発電機を組み込み、台車に載せて移動しやすくしました。

逆に調理スペースがなかったり、けん引用のトラックが確保できないとき、人力輸送できる2号は役立ち、1号よりは小回りが利く装備品です。

旧軍からの思想と反省

野外炊具は他国のフィールド・キッチンにあたり、温かい食事を作る点では同じとはいえ、外国の軍隊では野外演習を除けば、そこまで出番はありません。日本は災害派遣の頻度からか、他国よりお世話になる機会が多く、一般人が親近感を覚える珍しい軍事装備品です。

国民の間で「自衛隊=災害派遣」の印象も強く、その関係で野外炊具の名前は知らずとも、見たことはあったり、知っている人は多いです。

これは自衛隊の野外炊事能力の高さとともに、温食の重要性に対する理解を表しています。意外にも、それは戦時中の反省のみならず、旧軍からの運用思想に基づくものです。

あまり知られていませんが、旧日本陸軍も似たような野外炊具を持ち、97式炊事自動車という移動式さえありました。これは中国戦線では活躍したものの、太平洋戦争時の補給失敗により、いまやほとんど印象に残っていません。

太平洋戦争の悲惨なイメージから、「日本軍=欠食」と思われがちですが、少なくとも日中戦争まではそうではなく、むしろ温食の提供を心がけていました。

すなわち、旧軍に本来あった食事思想を受け継ぎ、補給戦失敗の教訓をふまえたのが、現代自衛隊の野外炊具になります。また、最近は戦闘糧食の工夫も進み、従来の缶飯より温かくて美味しく、野外での食料事情はさらに改善しました。

とはいえ、やはりできたての食事にはかなわず、パック飯ばかりでは士気低下を招き、今後も野外炊具の重要性は変わりません。そして、日本が災害大国である限り、自衛隊の災害派遣任務は続き、野外炊具も引き続き重宝されるはずです。

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