絶望的?アメリカの造船・補修能力のヤバすぎる凋落ぶり

アメリカ
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拡大する中国との差

第二次世界大戦時のイメージからか、アメリカは圧倒的な工業生産力を持ち、軍艦を大量に造れると思われがちです。ところが、現在のアメリカに往時の姿はなく、造船を含む製造業は著しく衰退しました。

冷戦終結による軍縮、予算削減にともない、アメリカの造船業は段々と小さくなり、いまは細々と海軍向けの艦船を造っているだけです。

最近はUSスチールが話題にあがり、鉄鋼業の衰退が注目されたものの、造船所も負けず劣らずの状況です。その凋落ぶりは衝撃的ともいえるもので、韓国企業に出資・買収してもらわないと、経営的に持たないかもしれません。

すでに軍艦の数では米海軍は中国に劣り、「280隻vs395隻」という戦力差になりました。いまだ質的には優勢とはいえ、中国海軍との能力差は年々縮まっており、中国が毎年10隻近く造るのに対して、アメリカは駆逐艦1〜2隻を届けるのに苦労しています。

予算難と設計段階の問題もあれど、近年の米海軍の迷走ぶりはひどく、着実に成長する中国海軍とは対照的です。もうそこには週間護衛空母、月刊正規空母を量産した大国はいません。

このままでは全ての点で逆転を許してしまい、いい加減テコ入れを図らない限り、アメリカの目指す300隻体制さえ難しいでしょう。

頼みの綱は日韓両国

いまや世界の造船規模のうち、アメリカのシェアはわずか0.1%にすぎず、中国に230倍の差をつけられています。残念ながら、欧州諸国も大して変わらず、西側陣営は日韓両国を除けば、造船業界が死にかけている状態です。

これは主に民間業界を指すとはいえ、その能力は軍艦建造の基盤になるほか、戦時体制を下支えする軍需産業になります。安全保障上は維持せねばならず、失った能力は短期間では取り戻せません。

造船業に限らず、製造能力は一度なくなると、その再建は決して簡単ではなく、人員育成と技術復活には時間がかかります。

たとえば、ロシア=ウクライナ戦争での砲兵戦を受けて、アメリカは砲弾生産力を強化中ですが、その規模はかつてのレベルからは遠く、思ったより進んでいません。

アメリカの造船所(出典:アメリカ海軍)

さて、造船に話を戻すと、日本と韓国は高い能力を持ち、それぞれ世界3位と2位をキープしています(1位は中国)。

韓国といえば、民間では世界屈指の造船大国に成り上がり、最近は軍艦の建造実績も安定してきました。日本は規模が小さくなったとはいえ、なんとか受注件数で踏みとどまりながら、高い技術力を維持しています。

建艦ペースでみると、日本は毎年2隻のフリゲート、1隻の潜水艦を造り、世界的には超優秀の部類です。冷戦以降も能力維持を怠らず、なんとか技術をつないできたところ、それが明確な差となって現れました。

米中が強すぎて目立たないものの、海上自衛隊の世界有数の規模を誇り、あのイギリス海軍をさえ上回ります。逆にいえば、これだけの護衛艦を毎年量産しても、中国の戦力差が全く埋まらず、むしろ足りないぐらい東アジアが「異常」なのです。

一方、イギリスは新型フリゲートが8年経っても完成せず、ドイツも就役後にトラブルが続発するなど、欧州もそれなりに苦労しています。

アメリカもさすがに焦ったのか、トランプ政権は大統領令をもって、造船業の復活強化を命じました。その道のりはかなり険しく、短期間での成果は見込めません。

どのみち、当面は同盟国の日韓に頼りながら、艦船の整備・補修を依頼するしかない状況です。すでに日米間では作業部会が立ち上がり、民間造船所では修理や点検が行われてきました。

この動きは双方にとってプラスに働き、米海軍はアメリカ本土に帰らずとも、前線近くでそのまま整備・修理できます。その分だけの時間やコストを削減しながら、なるべく展開戦力に穴を空けないようにするわけです。逆に日韓の造船所は新たな顧客、安定した需要を得られる好機でしょう。

また、米海軍長官も日本に対して、造船分野での対米投資だけでなく、日米で軍事転用可能な商船建造を呼びかけています。これは商船を軍事利用できる設計にしておき、有事で海上輸送力をすばやく確保するのが狙いです。

なお、アメリカのシンクタンク(CSIS)が台湾有事の模擬戦を行い、2022年末に発表しましたが、同シナリオではアメリカは空母2隻を失い、最大20隻の艦艇を喪失しました。これらを早期に補充する場合、現行の建艦能力では全く足らず、日本も米艦船の補修・建造に向けた準備に取り組み、アメリカの関与をつなぎ止めるべきです。

日本の防衛が日米同盟を前提とする以上、米海軍の能力低下はそのまま敗北につながり、日本にとっては死活問題になります。

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