絶望的?アメリカの造船・補修能力のヤバすぎる凋落ぶり

アメリカ
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拡大する中国との差

第二次世界大戦時のイメージからか、アメリカは圧倒的な工業生産力を持ち、大量に軍艦を造れると思われがちです。ところが、いまのアメリカに往時のような姿はなく、造船を含む製造能力は著しく後退しました。

冷戦終結後の軍縮、予算削減にともなって、約300カ所の造船所が閉鎖状態になり、大型艦船を建造できる場所といえば、現在はたった4カ所しかありません。

最近はUSスチールが話題にあがり、鉄鋼業の衰退が注目されたものの、造船所の惨状も変わりません。その凋落ぶりは想像を超えており、韓国企業が出資・買収した結果、あまりの酷さに頭を抱えました。

すでに艦船数では中国は米海軍を上回り、「395隻vs280隻」という戦力差になりました。まだ質的には優勢とはいえ、中国海軍との能力差は年々縮まり、中国が年間10隻を造るのに対して、アメリカは駆逐艦1〜2隻を届けるのがやっとです。

予算不足と設計時の問題はあれども、近年の米海軍の迷走ぶりはひどく、着実に成長する中国海軍とは対照的です。そこには週間護衛空母、月刊正規空母を量産した姿はありません。

最近の例だけをあげても、以下のような状況です。

  • 「ズムウォルト級」駆逐艦:高性能・ステルス・近未来
    →コスト超過で失敗、計画の32隻に対して3隻で打ち切り。
  • 「沿海域戦闘艦」構想:コンパクト・多機能・柔軟
    →コスト超過で失敗、計画の52隻に対して35隻で打ち切り、早期退役中。
  • 「コンステレーション級」フリゲート:多機能・高い防空性能・共同交戦能力
    →コスト超過で失敗、計画の20隻に対して2隻で打ち切り。

現状では「アーレイ・バーク級」イージス艦を除くと、汎用性のある軍艦はまともに造れていません。

このままでは質・量ともに逆転を許してしまい、いい加減その能力を立て直さないと、アメリカが目指す300隻体制は難しいでしょう。

頼みの綱は日韓両国

いまや世界の造船規模のうち、アメリカのシェアはわずか0.1%にすぎず、中国に230倍の差をつけられています。残念ながら、欧州諸国も大して変わらず、西側陣営は日韓両国を除くと、造船業界が死にかけている状態です。

これは民間造船を含むとはいえ、その能力は軍艦建造の基盤になるほか、戦時体制を下支えする産業になります。安全保障上は維持せねばならず、失った能力は短期間では取り戻せません。

造船業に限らず、製造能力は一度なくなると、その再建は決して容易ではなく、人材育成と技術復活には時間がかかります。

たとえば、ロシア=ウクライナ戦争での砲兵戦を受けて、アメリカは砲弾生産力を強化中ですが、その能力は以前の規模からは遠く、想像以上に進んでいません。

アメリカの造船所(出典:アメリカ海軍)

さて、造船能力に話を戻すと、日本と韓国は高い能力を持ち、それぞれ世界3位と2位をキープしています(1位は中国)。

韓国といえば、民間では世界屈指の造船大国になり、最近は軍艦の建造実績も安定してきました。日本は規模が小さくなったとはいえ、なんとか受注件数で踏みとどまりながら、高い技術水準を維持しています。

建艦ペースでみると、日本は毎年2隻のフリゲート、1隻の潜水艦を生み、世界的には超優秀の部類です。冷戦終結以降も能力維持を怠らず、技術を継承してきたところ、明確な差になって現れました。

米中が強すぎて目立たないものの、海上自衛隊の世界有数の規模を誇り、あのイギリス海軍をさえ上回ります。逆にいえば、これだけの護衛艦を毎年量産しても、中国の戦力差が全く埋まらず、むしろ足りないぐらい東アジアが「異常」なのです。

一方、イギリスは8年経ってもフリゲートが完成せず、ドイツは就役後にトラブルが続発するなど、欧州もそれなりに苦労しています。

アメリカはさすがに焦ったのか、トランプ政権は大統領令を使い、造船業の復活強化を命じました。ただ、その道のりは極めて険しく、短期間での成果は見込めません。

そもそも、アメリカの造船業は主に軍需しかなく、本気で造船能力を復活させるならば、民間の需要を掘り起こさねばなりません。しかし、アメリカは保護主義政策の法律の下、国内の海上輸送を自国の船に限定してきました。

アメリカ国内を航行する場合、基本的には自主建造の船に限り、これが造船所を「外需<内需」にして衰退させました。国内の需要が落ち着くと、一転して民間需要は落ち込み、海外需要か軍艦建造に目を向けるしかありません。

されど、保護主義で育った造船業は競争力を欠き、海外の造船業界に太刀打ちできません。そうなると、政府案件の軍艦建造(軍需)しかなく、ここで細々と生き延びてきました。

問題は建艦計画が不安定化すると、造船所は生き延びることができず、ますます衰退させてしまいます。そして、近年の米海軍の失敗と迷走をふまえると、安定した建艦計画は期待できません。

いずれにせよ、当面は同盟国の日韓に頼りながら、艦船を整備・補修するしかないわけです。すでに日米の作業部会が立ち上がり、民間造船所で修理や点検が行われてきました。

この動きは双方にとってプラスに働き、米海軍はアメリカ本土に帰らずとも、前線近くでそのまま整備・修理できます。その分だけの時間やコストを削り、展開戦力に穴を空けない仕組みです。逆に日韓の造船所は新たな顧客、安定した需要を得られる好機でしょう。

また、米海軍長官は日本に対して、造船分野での対米投資だけでなく、日米で軍事転用可能な商船建造を呼びかけています。これは商船を軍事利用できる設計にしておき、有事で海上輸送力を確保するのが狙いです。

なお、アメリカのシンクタンク(CSIS)が台湾有事の模擬戦を行い、2022年末に発表しましたが、同シナリオではアメリカは空母2隻を失い、最大20隻の艦艇を喪失しました。これらを早期に補充する場合、現行の建艦能力では全く足らず、日本も米艦船の補修・建造に向けた準備に取り組み、アメリカの関与をつなぎ止めるべきです。

日本の防衛が日米同盟を前提とする以上、米海軍の能力低下は敗北につながりかねず、日本にとっては死活問題になります。

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