100%国産の代替品
ロシア=ウクライナ戦争において、とりわけ大きな戦果をあげながら、世界から注目されたのが「HIMARS(ハイマース)」です。これはアメリカの高機動ロケット砲ですが、その機動力は一撃離脱戦法に適しており、ロシア軍に精密攻撃を浴びせたあと、自身はすぐ逃げて撃破を免れてきました。
その結果、ハイマースは売れ行きを伸ばしたものの、トランプ政権の言動が同盟国の不信を買い、兵器輸出にも暗い影を落としています。仮想敵国(ロシア)への融和姿勢のみならず、首脳会談の決裂後にウクライナ支援を一時停止に追い込み、同盟・友好国に衝撃を与えました。
同盟国としての信用を失い、使用制限の可能性が否めない以上、他国が米国製兵器の代わりを探すのは仕方なく、その動きは欧州で加速しています。ハイマースも例に漏れず、代替兵器の模索が進むなか、フランスでは「フードル」という国産版も登場しました。
フードルはハイマースと同じく、路上では高い機動展開力を誇り、レノー社の6輪トラックに載せた多連装火砲です。その車体は中型のC-130輸送機に収まり、すばやく空輸できるとともに、撃ってはすぐ逃げる戦術に適しています。
さらに、フードルはドローンと連携すべく、新しい通信システムを備えており、捕捉から撃破までの時間短縮を実現しました。
見た目もハイマースに近い
通常のコンテナは227mmロケット×6発ですが、換装次第で射程150km以上のATACMSミサイル(1発)、あるいは500km超のPrSMミサイル(2発)を運用可能です。この弾薬コンテナはハイマース、M270型のMLRSと互換性があって、運用面での融通が期待できます。
また、フードルはシステムの統合さえすれば、長距離巡航ミサイルも運用できるほか、射程1,000kmの極超音速ミサイルも撃てるそうです。欧州諸国が長距離火力の確保を急ぐなか、ハイマースに変わり得るひとつの選択肢にはなるでしょう。
なによりも、独自路線にこだわるフランスにとって、フードルは他国の干渉なく使えるうえ、国内で生産できる利点があります。ハイマースは性能・実績が申し分ないものの、受注数の多さから納期がズレ込みやすく、他の独自兵器との統合が許されていません。
一方、フードルがハイマースより安く、100%フランス産と宣言されています。もし国内で安定的に量産できるならば、そちらの方が運用と補給面では安心です。
正式に決まってはいない
ただ、フードルは採用が決まったわけではなく、あくまで次期ロケット砲の候補にすぎません。高性能の国産装備品とはいえ、欧州標準になる「EuroPULS」という本命がいるからです。
EuroPULS計画にはフランス企業も加わり、他の欧州勢との互換性を確保すべく、MLRSの後継になると思われていました。ところが、別で独自のフードルもつくり、2026年までに試験を行う予定です。
独自路線を歩んできた歴史を考えると、フードルを選ぶ可能性があるとはいえ、ロシアの脅威とトランプ政権の暴走により、ヨーロッパの結束が試されています。欧州としての姿勢を優先すれば、そのままEuroPULSを導入すると思われます。
実際は性能比較と納期スケジュールもふまえて、陸軍の要求に合った方を選ぶでしょうが、複数の有力候補があるのは悪くはなく、純国産品であればなおさらです。

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