無人砲塔で生存性向上
ロシアといえば、戦車大国のイメージが強いものの、ウクライナ侵攻では苦戦に陥り、自慢の戦車群は大損害を被りました。主力のT-72シリーズはもちろん、比較的新しいT-80、T-90戦車も損耗が激しく、すでに3,000〜4,000両を失いました。
ロシア戦車が評判を落とすなか、次世代の主力戦車として期待されたのが、T-14「アルマータ」でした。
- 基本性能:T-14アルマータ戦車
重 量 | 55t |
全 長 | 10.7m |
全 幅 | 3.5m |
全 高 | 3.3m |
乗 員 | 3名 |
速 度 | 前進:時速75〜80km 後進:時速70〜80km? |
行動距離 | 約500km |
兵 装 | 125mm滑腔砲×1 12.7mm機関銃×1 7.62mm機関銃×1 |
価 格 | 約7〜9億円 |
ロシアでは長らくT-72シリーズを使い、T-80・T-90もその延長線上にあります。
しかし、これらは基本設計が古く、これ以上の発展改良には限界があったゆえ、陸軍の近代化計画の一環として、2000年代に新たな戦車構想を掲げました。それまでの設計思想からの脱却を図り、T-14アルマータの開発に取り組んだ結果、2015年の戦勝記念日パレードで初公開しました。
最大の特徴は新型砲塔の採用であって、乗員を車体前部に集中配置しながら、砲塔部分を無人化しました。乗員は装甲カプセルに乗り組み、その前面を分厚い鋼材で装甲化したため、従来より高い生存性が期待できます。
ロシア戦車の弱点といえば、乗員が弾薬庫の真上に座り、被弾・誘爆時に砲塔ごと吹き飛ぶ点ですが、T-14では乗員を保護カプセルで守り、生存率を引き上げました。
その代わり、無人砲塔の装甲厚は薄く、敵の戦車砲は言うまでもなく、40mm機関砲でさえ怪しいです。乗員保護を優先するべく、車体正面に装甲を集中させるという、かなり割り切った構造といえます。
ほかにも、複合装甲で防護力を維持しながらも、約15%の軽量化に成功しており、周りに高性能センサーを配置して、全周360度を警戒できるようになりました。また、アクティブ防護システムも盛り込み、理論上は対戦車ミサイルを迎撃可能です。
一方、攻撃面についてみると、125mm滑腔砲と自動装填装置を持ち、最大射程は約12kmとされるも、実際の有効射程は5kmといわれています。そして、最新の射撃管制システムにより、戦車のデジタル化が大きく進み、目標の自動追尾のみならず、複数の同時処理も可能になりました。
T-14は機動力の確保にも余念がなく、自動変速機で出力を12段階に分けながら、最高時速70〜85kmを出せるそうです。なお、ロシア戦車は後進速度が遅く、以前から欠点とされてきましたが、T-14では前進時と性能が変わらず、時速70〜80kmを出せると言われています(一部の説)。
ただ、全力後進する姿は目撃例がなく、パレードではエンジンが故障するなど、通常の前進時でさえ、その信頼性が疑問視されました。
事実上の打ち切りに
さて、T-14の登場は世界中で話題を呼び、ロシア側の宣伝と誇張はあれども、その技術的革新性は一定評価を受けました。特に無人砲塔と保護カプセル、アクティブ防護装置に注目が集まり、当時は画期的な設計として認識されました。
そんな自慢のT-14戦車ですが、本来はNATOのレオパルト2などに対抗すべく、次世代戦車として量産を行い、5年間で2,400両もそろえるつもりでした。
2021年には先行量産が始まり、約20〜30両が納入されたとはいえ、翌年のウクライナ侵攻を受けて、量産計画は事実上中止になりました。ロシア=ウクライナ戦争での損耗が激しく、大量の装備品、物資、資金を飲む込む以上、新型戦車に多くの資源は割けません。
T-14のコストは約7〜9億円と高く、T-90の数倍に相当するなど、戦時下の国家財政には厳しい金額です。
しかも、T-14は実戦経験がないことから、本当に戦場で通用するかは分からず、現状では持て余しています。実戦投入したくとも、現在の配備数は30両以下にとどまり、あまり有効な戦力として期待できません。なによりも、貴重な高性能・高価な戦車を失う、あるいは鹵獲されるのを恐れています。
ウクライナで数千両の戦車を失い、保管中の予備戦車ですら底を尽くなか、高価な新型戦車を生産するぐらいならば、同じ金額で数両のT-90を作った方が合理的です。
結局、T-14は数値上の性能こそ高いものの、一定の誇張が入っている点は否めず、戦時下での量産性が悪いことから、兵器としての費用対効果はよくありません。どんなに高性能な兵器といえども、量産できずに数をそろえなければ、戦力としては無意味なのです。
ロシア側は量産と実戦投入にもとづき、その真価を発揮したかったでしょうが、ウクライナ侵攻が続く限り、T-14は生産を再開することなく、そのまま幻の戦車として終わるでしょう。
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