長射程のV1ミサイル?ウクライナの「フラミンゴ」の威力

フラミンゴミサイル 外国
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国産の巡航ミサイル

ロシアによる全面侵攻を受けて、ウクライナは西側の軍事支援に頼りながら、今日まで善戦を続けてきました。しかし、西側諸国では「支援疲れ」が目立ち、いつまでも頼るわけにはいきません。

そこで、ウクライナは国産兵器の開発に取り組み、「ボクダナ」自走砲や大量の国産ドローンを投入中です。

そして、今度は独自の長距離打撃力を保有するべく、「FP-5」というミサイルを開発しました。

  • 基本性能:FP-5 フラミンゴ
重 量 約6t
全 長 14m
弾 頭 1,150kg(1.15t)
速 度 時速800〜950km
射 程 最大3,000km
高 度 5,000m
価 格 約1億円

フラミンゴの開発はスタートアップ企業が担い、とにかく生産性を優先するべく、かなりシンプルな構造になりました。それゆえ、航空爆弾にエンジンと翼を付けながら、GPSと慣性航法装置を加えたのが実態です。

見た目はドイツの「V1ロケット」に酷似しており、長射程のウクライナ版・V1といえます。V1は第二次世界大戦の兵器ですが、巡航ミサイルの始祖にあたり、ある意味で原点回帰しました。

ちなみに、なぜフラミンゴと呼ぶのか?

初期生産時に間違えてピンク色に仕上がり、そのままフラミンゴと命名されたそうです。

フラミンゴミサイル巨大な巡航ミサイル「フラミンゴ」

そんなフラミンゴは約6トンの重量を持ち、弾頭部分だけで約1.15トンにのぼるなど、他の巡航ミサイルと比べて圧倒的に大きいです(「トマホーク」は約1.5トン)。

その弾頭にはソ連時代の爆弾を組み込み、大量にある在庫を流用しながら、生産コストの抑制に成功しました。

開発元によると、弾頭部分はトマホークの2.5倍にあたり、1発で建造物など地上目標を完全に破壊します。1トン爆弾が時速800km以上で飛び、そのまま突っ込んでくる以上、その威力はバカになりません。

また、規模が大きい分だけ燃料の搭載量も多く、最大射程は3,000kmにのぼるそうです。これが事実ならば、ロシアの首都・モスクワはもちろん、第2都市のサンクトペテルブルクにも届き、ロシア領内の安全圏は狭くなりました。

命中率は期待できないが

一方、シンプルな作りであるがゆえ、性能面では通常の巡航ミサイルに劣り、あまり命中精度は期待できません。たとえば、命中における誤差範囲を比較すると、トマホークの10m以内(新型は3〜5m)に対して、フラミンゴは約14mとなっています。

この問題はウクライナ側も分かっており、GPSと慣性航法だけで誘導する点を考えると、そこまで悪い数値ではありません。とにかく、いまは命中精度よりも生産を急ぎ、「数」で精度の悪さを補うつもりです。

まさに「数撃てば当たる」の精神ですが、長い消耗戦と度重なるドローン攻撃にともなって、ロシア軍の防空体制は揺らぎ、一定の効果は発揮できるでしょう。

同時に複数を放てば、ロシア側も全ては迎撃できず、1発あたりの威力をふまえると、司令部や弾薬庫、インフラ施設を破壊できます。

自爆ドローンも厄介とはいえ、その搭載量は限られているため、短期間で損害を復旧してきました。ところが、1トン爆弾の飛来になると話は変わり、従来のような短期復旧どころか、分厚いコンクリートの壁すら吹き飛び、瓦礫からの再建レベルになります。

ただ、簡素な構造にもかかわらず、発射までに約30〜40分はかかってしまい、戦場における機動性・柔軟性には欠けます。この準備時間はトマホークの5倍は遅く、敵に察知されやすい運用上の欠点です。

調達・機動性の問題

しかし、この規模のミサイルになると、大型のジェット・エンジンを搭載せねばならず、その生産・調達が課題になっています。実際はジェット練習機のエンジンを使い、ウクライナ側は数千基を確保したと主張するも、これはさすがに疑わざるをえません。

多くの機体が同型を使用中のほか、たくさんの予備基があったとも思えません。新規生産も始まったとはいえ、いきなりエンジンの大量生産はできず、どうにか数をそろえない限り、目標の月産210発には届きません。

フラミンゴミサイルフラミンゴの生産工場

さらに、生産工場に汚職の調査が入るなど、その製造は「順調」とまではいえず、現行の月産50発も誇張が入っているはずです。

シンプルな構造といえども、ミサイルの量産は意外に難しく、ロシアも巡航ミサイルの生産が追いつかず、しばらく貯めてから攻撃してきました。おそらく、ウクライナも似たアプローチをとるでしょう。

独自の兵器という利点

さて、フラミンゴは2025年8月に実戦投入を行い、クリミアでロシア側の拠点を吹き飛ばしました。ところが、現状では少数生産・少数配備にとどまり、戦局を変えるほどではありません。

あとは大量生産できるかどうかですが、ウクライナは巡航ミサイルの製造実績が乏しく、そう簡単には量産できないと思われます。

さはさりながら、国産化した意義は小さくはなく、軍事支援に対する依存からの脱却を図り、単独での抗戦能力に向けた一歩です。

ミサイルとしての性能はともかく、国内生産できるのが重要であるほか、西側からの供与兵器とは違って、ロシア領の攻撃に他国の承認が要りません。これまではHIMARS、ストーム・シャドウを受領するも、基本的にロシア領への攻撃は許されず、十分な反撃をできていませんでした。

このような使用制限が付きまとうなか、ウクライナは自分たちの自爆ドローンを使い、ロシアの製油所をしつこく狙うなど、なんとか相手に打撃を浴びせてきました。

数が足りないといえども、ここに1トンの巡航ミサイルが加わると、独自の反撃能力を一気に底上げできます。しかも、戦時下の国家が取り急ぎつくり、長射程のV1ロケットと考えると、その出来映えは悪くありません。

まとまった数がそろう度に放ち、爆撃機の発進基地、弾薬庫、物資集積所とともに、通信・エネルギー関連の設備をしつこく狙えば、徐々にボディブローのように効いてきます。

ゲームチェンジャーにはならずとも、嫌がらせのレベルはハネ上がり、使い方次第では経済の混乱を招き、ロシア国民に戦争の対価を思い知らせるでしょう。

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