自爆ドローンの延長
世界的に兵器価格が高騰するなか、アメリカのアンドリル社は真逆の戦略を歩み、低価格に量産できる「バラクーダ」ミサイルを提案しました。
同社は軍需産業の一部とはいえ、いわゆるスタートアップ企業にあたり、「YFQ-44A」などの無人機を開発してきました。そんな有望企業が提示するバラクーダとは、どのようなミサイルなのでしょうか?
- 基本性能:バラクーダ100/250/500
| 100 | 250 | 500 | |
| 射 程 | 地上:110km 空中:160km |
370km | 950km |
| 速 度 | マッハ0.74(時速920km) | ||
| 炸薬量 | 約18kg | 約18kg | 約45kg |
| 主な母体 | 地上車両 攻撃ヘリ 無人機 |
戦闘機 水上艦艇 |
戦闘機 爆撃機 輸送機 |
| 価 格 | 約3,000万円 | ||
「バラクーダ」の名前から説明すると、それは熱帯地域に住む魚であって、ピラニアに近い凶暴な性格で知られています。
しかし、ミサイルの方は凶暴というよりは賢く、AI機能を駆使しながら、自律飛行できる亜音速の巡航ミサイルです。開発の経緯をふり返ると、まずは自律型の自爆ドローン(バラクーダAAV)をつくり、これを巡航ミサイルに発展・改良しました。
したがって、その実態は自爆ドローンの延長線に近く、すでに巡航ミサイルと無人機の線引きが難しいなか、さらに境界線をあやふやにしそうです。
さて、バラクーダはひとつのミサイルではなく、実際は3つのタイプに分かれており、これらをまとめてバラクーダ・シリーズと呼びます。
種類によって炸薬量と射程が違い、運用する母体や作戦目標に応じながら、それぞれを使い分ける形です。たとえば、バラクーダ100は無人機や攻撃ヘリ、車両から放ち、バラクーダ250は水上艦艇や戦闘機で運用します。
そして、最も大きいバラクーダ500になれば、F-35のような戦闘機はもちろん、大型爆撃機に多く搭載したり、輸送機からも空中投下・発射できます。
ただし、どのタイプも基本設計は変わらず、比較的簡単な構造にAI機能を組み込み、ターボ・ジェットエンジンを搭載しました。また、システムの共通化とモジュール化を図り、任務に合わせて改良可能にするなど、運用上の柔軟性を高めました。
低コストで大量調達?
さて、バラクーダの魅力とはいえば、従来のミサイルより安い点です。
簡単な基本構造に加えて、ソフトウェアの多くは公開版を使い、開発コストを抑えるとともに、部品数と生産工程を半減させました。さらに、特殊な工具・機械に限ると、なんと95%の削減に成功しました。
その結果、一般的な巡航ミサイルと比べると、生産コストは約30 %も安く、あの「トマホーク」と比較した場合、わずか1/10の費用にすぎません。
しかも、「ヘルファイア」と似た価格にもかかわらず、10倍以上の射程と倍近い炸薬量を誇り、その費用対効果は驚異的なものです。
バラクーダ100(出典:アンドリル社)
当然ながら、低価格の方が大量調達しやすく、この価格競争力が米軍の目に留まりました。
対中国戦でミサイルの大量消費が見込まれるなか、いまのアメリカは備蓄量が足りておらず、現状では2〜3週間で撃ち尽くしてしまいます。
ウクライナ向けの砲弾生産でも分かるとおり、現在のアメリカは冷戦後の軍縮にともない、兵器の生産能力が著しく落ちており、かつてのような姿はありません。
砲弾の増産で苦労しているところ、巡航ミサイルの大量生産はできるはずがなく、複雑な製造ラインの再構築、熟練技術者の育成が欠かせません。
むろん、これは短期間では実現できないため、当面の生産能力は変わらず、別の代替兵器を模索してきました。
このような苦境のさなか、バラクーダ・シリーズに白羽の矢が立ち、低コストで大量調達できると期待されています。
自爆ドローンの延長線である以上、トマホークより誘導能力などでは劣るものの、バラクーダは生産性と費用対効果は申し分なく、現場で改良しやすい強みを備えました。
目標に合わせて種類を使い分けられるほか、いろんな母体に搭載できる利点を持ち、その高い柔軟性は大量消費前提の兵器には最適です。すでにアメリカでは運用試験が進み、正式採用に向けて期待が高まっています。


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