重武装のミサイル戦艦
アメリカのトランプ大統領といえば、勝ち組の象徴である黄金が大好きです。ホワイトハウスの内装を金色にしたり、富裕層向けに「ゴールドカード(移住ビザ)」を発給するなど、大統領個人の趣向を反映してきました。
個人的な趣味は軍事分野におよび、「ゴールデン・フリート(黄金艦隊)」という名称の下、大型艦と無人艦で戦力の二分化を図り、前者に大量のミサイルを積むつもりです。
そして、この黄金艦隊の中核を担うべく、「トランプ級」戦艦の建造を発表しました。
- 基本性能:「トランプ級」戦艦
| 排水量 | 3〜4万t |
| 全 長 | 256〜268m |
| 全 幅 | 32〜35m |
| 速 力 | 30ノット(時速55.6km) |
| 乗 員 | 650〜850名 |
| 兵 装 | レールガン×1 5インチ砲×2 レーザー砲×2 対空レーザー砲×4 30mm機関砲×4 対ドローン装置×2 極超音速滑空ミサイル発射基×12 垂直発射システム(VLS)×128 |
| 艦載機 | V-22オスプレイなど |
| 建造費 | 約1.5〜2.5兆円 |
| 計画数 | 22〜25隻 |
「トランプ級」という名前にかかわらず、1番艦は「デファイアント」と呼び、まずは2隻を建造したあと、最終的には22〜25隻を量産するそうです。ちなみに、米海軍は同じ名前の無人水上艇を使い、無人化技術の実証試験をしていますが、これとは全く別の艦艇になります。
さて、大統領自身が「戦艦」と明言したとおり、「トランプ級」は3〜4万トンの排水量を誇り、約650〜850名が乗り込むなど、かつての戦艦並みの規模になりました。
大きな船体を活用しながら、多数の兵装で重武装化を試み、5インチ砲と128セルの垂直発射システう(VLS)、レーザー兵器、レールガンを搭載予定です。
まず、レーザー兵器は300kW級×2、あるいは600kW級×2に加えて、別で対空用に60kW級を4つ備えます。
レールガンは32メガジュールの威力を持ち、5インチ砲と同じく超高速弾(HVP)を発射可能です。特に5インチ砲の並列配置を見ると、HVPによる対空射撃を想定しており、他にもSeaRAM・30mm機関砲・対ドローン装置など、あらゆる防空兵器を並べました。
一方、甲板には128個のVLSが並び、トマホーク巡航ミサイル、SM-6防空ミサイルに加えて、開発中の核巡航ミサイルを搭載します。
また、これとは別に12個の大型VLSを組み込み、極超音速滑空ミサイルを運用する予定ですが。これは米陸軍の「ダーク・イーグル(LRHW)」と同じく、中距離の高速弾道ミサイルであって、打撃力のメインになります。
そして、フルスペックのSPY-6レーダー、イージス戦闘システムを使い、各兵装を的確に運用する仕組みです。
ここまでをまとめると、巨大なイージス艦を建造したあげく、そこに多くのミサイル・火砲を積み、艦隊旗艦から空母打撃群の防空、戦力投射を任せます。
トランプ大統領の説明によると、これまでの戦艦より100倍は強く、圧倒的な火力で敵を打ち砕くそうですが、極超音速滑空ミサイルを搭載する以上、旧来の戦艦になかった打撃力を入手しました。
ズムウォルト級に近い?
もはや意味不明なぐらい重武装ですが、その実態は一般的な「戦艦」ではなく、「ズムウォルト級」に近いかもしれません。
「ズムウォルト級」は駆逐艦にもかかわらず、15,000トン級の大きな船体を持ち、最新の兵装システムを盛り込むなど、高性能な打撃力を志した点では同じです。
ただ、ステルス性と省スペース、重武装化などを狙った結果、「ズムウォルト級」は予算オーバーで行き詰まり、わずか3隻で打ち切られました。
そこで、さらなる大型艦を建造すれば、兵装を無理なく詰め込んだり、数隻分の打撃力を確保できるとしました。また、「DDG(X)計画」の部品と兵装を流用するなど、コスト節約を意識しながら、過去のコンセプトを再び反映しました。
言いかえると、「ズムウォルト級」「DDG(X)」で実現できなかった分、新たに大型艦に盛り込もうという考えです。
計画自体は第1次トランプ政権下で始まり、トランプ自身の思いつきはあれども、米海軍内である程度は共有されていたようです。これまでの失敗と対中国戦を考えると、さすがの米海軍も焦りを隠せず、切り札といえる戦力の整備を急ぐなか、大統領と利害が一致した可能性はあります。
たとえば、米海軍は中東のフーシ派に対処するべく、「アーレイ・バーク級」を現地に派遣するも、防空能力が足りないと認識しました。イージス艦としての能力はともかく、単純に防空ミサイルの数が足りず、火力不足だと感じたようです。
このままでは飽和攻撃に耐えられず、防空ミサイルを大量装備した専用艦を配備しないと、対中国戦で負けると恐れました。この危機感が大統領の方針と結びつき、「黄金艦隊計画」につながったといえます。
されど、個人的な趣味を反映した側面は否めず、十分に練られた計画なのかは不明です。
以前、世界中から米軍の指揮官・将軍を集めて、トランプ大統領は演説をしましたが、このとき「戦艦を復活させよう」と言いました。トランプは演説が進むにつれて、本来のテーマから脱線することが多く、急に戦艦の復活案に言及しました。
トランプ大統領いわく、戦艦の威圧感と美しさは他にはなく、軍事力を示すには適任とのこと。アメリカ大統領の言葉である以上、一応は検討しないわけにはいかず、個人的な趣味や意向を汲み取り、国防政策に反映した形です。
本当に造れるのか?
なお、大統領の肝煎りプロジェクトとはいえ、本当に建造できるかは怪しいです。
黄金艦隊計画は海軍力の増強のみならず、造船業の復活に寄与するそうですが、近年の建造実績をふまえると、まともに戦艦を造れるとは思えません。
分散型の造船ネットワークを使い、計画通りの納入を目指すかたわら、造船業の復活を目指すそうですが、現状ではその実現性に疑問が残ります。
前述の「ズムウォルト級」は言うまでもなく、「コンステレーション級」フリゲートですら、コストオーバーランで建造が進まず、最終的に2隻で終わりました。
フリゲートすら建造できないなか、3〜4万トン級の大型艦を造れるとは思えず、いつものコスト高騰と予算不足に苦しみ、他と同じ運命をたどる可能性が高いです。
予算が限られている以上、思い切った選択と集中を行い、ひとつの船にマルチ能力を求めたり、あれこれ盛り込むのは理解できます。無人化技術の発達を考えると、有人艦は空母と大型艦に絞り、残りを無人艦にするのはアリです。
しかし、開発リスクが大きい冒険なのは変わらず、もし過去の失敗作と同じ道をたどれば、かえって貴重な国家予算を無駄に使い、アメリカの国益を損ねてしまいます。
それならば、「アーレイ・バーク級」に力を注ぎ、まだ実績のあるイージス艦を量産すべきかと。
ことわっておくと、「アーレイ・バーク級」は船体が小さく、極超音速滑空ミサイルを搭載できず、フーシ派との防空戦では火力不足が目立ち、これ以上の能力拡張が難しいのは事実です。それでもなお、「アーレイ・バーク級」は信頼性と汎用性が高く、変な博打で派手に失敗するよりマシでしょう。
仮に戦艦を建造できたとしても、予算オーバーで少数(2〜3隻)にとどまれば、あまり戦力としては意味がなく、「ズムウォルト級」の二の舞になるだけです。
逆に計画通りに進んでも、従来の艦隊編成と異なる以上、現場の苦労と混乱は避けられず、デメリットが上回ると思われます。しかも、通常の駆逐艦と比べて、2〜3倍の乗組員がいるため、人手不足に拍車をかけてしまい、運用上は割に合いません。
軍事では少数の高性能兵器ではなく、多数の汎用兵器をそろえる方がよく、時には戦争の勝敗を分けてきました。ドイツのティーガー戦車しかり、日本の大和型戦艦しかり、たとえ個々の性能は優れていても、敵の量産兵器に負けたケースは多いです。
「トランプ級」が想定の能力を獲得しても、十分な費用対効果を見込めるのか、果たして戦力になり得るのか。イージス艦の更新分や艦上戦闘機の予算を奪い、結果的に戦力整備をかき乱したあげく、計画中止になれば目も当てられません。
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