目的は入隊のあと押し
小泉進次郎大臣の肝煎り政策として、防衛省は退職自衛官の支援強化に取り組み、2027年に「退職自衛隊員・家族支援庁」を新設します。
これは自衛隊を退職したあと、本人の再就職をサポートしたり、その家族をケアするなど、除隊後の不安解消を目指す試みです。
自衛隊は「軍隊」である以上、多くの若い兵士が欠かせず、大量採用・退職を繰り返します。約22万人の自衛官のうち、毎年8,000人以上が組織を去り、約1万人を新規採用してきました。
大規模な入れ替えを通して、組織全体の新陳代謝を図り、「若さ」を維持する形です。
具体的に見ていくと、正社員扱いの「曹」はともかく、「士」は期限付きの契約社員になり、通常は任期満了後に辞めます。任期制にしておけば、一定の若年層が流れ込み、組織の高齢化を防げる、という狙いです。
入隊する側の視点に立つと、普通は正社員が好ましいものの、任期制にもメリットはあります。たとえば、とりあえず若いうちは自衛隊で働き、将来に向けたお金を貯めながら、早めに第二の人生を選択できる。
他方、正社員の「曹」であっても、民間より早く定年を迎えてしまい、ほとんどが50代半ばで退官します。
この若年定年制は自衛隊に限らず、世界中の軍隊に共通するものの、再就職を含むキャリア支援がないと、制度と組織構造が成立しません。
むろん、現在も再就職の斡旋はしており、どこの駐屯地・基地を覗いても、援護科の担当者がいます。ただ、現状は各部隊に任せた感じが強く、一元的に仕切る専属組織がありません。
企業・団体への斡旋にせよ、職業訓練と教育にせよ、リソースを集中させながら、まとめて取り組んだ方がよく、それが今回の創設目的です。
専門部署が一括して行えば、業務の効率化だけではなく、包括的な支援につながり、司令塔の役割も果たせます。利用者側からしても、まとめてくれた方が助かり、ワンストップで全てを終わらせます。
ただし、「庁」という仰々しい名前に対して、実際は防衛省の「外局」にとどまり、人員も110名ほどにすぎません。
再就職支援は重要(出典:防衛省)
その役目は再就職支援にとどまらず、ケガで退職した者の社会復帰支援、メンタルヘルスを含む医療支援、家族の育児・就学支援など、退官後の人生に寄り添いながら、全体的な不安をやわらげます。
退職後の人生が見えてくれば、入隊のハードルが少しは下がり、募集しやすくなるでしょう。安心して来てもらうべく、除隊後のサポートに力を注ぎ、結果的に入隊者を増やす算段です。
その役割と目的を見ても、アメリカの退役軍人省に近く、参考にしたと思われます。退役軍人の就職斡旋はもちろん、専用の病院まで用意しており、民間との差別化を図りました。
他方、アメリカの退役軍人省は問題が多く、十分な予算が割り当てられないなか、一部の支援制度は形骸化が進み、特に医療ケアが足りません。
それでも、日本よりはいろんな優遇制度が整い、支援内容は教育・医療・保険に加えて、住宅ローンや旅行割引におよび、一種のステータスといえます。現役時代の福利厚生も手厚く、手当・補助は物価高を考慮しても、献身に見合った支給額です。
そんな米軍は同盟相手にあたり、定期的に訓練で顔を合わせるため、必然的に待遇の差を実感します。似たような任務に就き、同じ階級・内容でそこまで差がつけば、さすがに使命感だけではやり切れず、人材流出を加速させるだけでしょう。
自衛隊も割引・特典はありますが、その充実ぶりは米軍に到底およばず、退職自衛官庁もサービスの拡充を通して、退職後の恩恵にも力を入れる予定です。
社会の意識改革も
そもそも、「安全保障」は誰もが享受する利益であって、自衛隊はそれを国民に提供しています。彼らは軍事組織であるとともに、国民の生命・生活に直結する公共財です。
だからこそ、感謝の気持ちとともに、最低限の敬意を払い、その活動を支援すべきでしょう。
全ての自衛官は下記の宣誓をします。
「ことに臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。」
文字どおり、有事では命を懸けて戦い、国民を守るという約束です。
軍人は命を懸けるからこそ、名誉を重視する傾向が強く、自衛隊も変わりません。
再びアメリカに目を向けると、軍人は人口の「3%」にすぎませんが、その少数による国家への貢献に対して、社会は敬意と感謝を表してきました。田舎と都市部を問わず、退役軍人への理解が高く、彼らの尊厳を守っています。
一方、日本はどうでしょうか?
ここ20〜30年で自衛隊への理解が進み、国民の信頼を得たといえども、いまだ自衛官が制服を着て歩くと、一部界隈から抗議されます。
これは国民意識の問題ですが、別に平身平頭するのではなく、単に「ありがとう」の気持ちを抱き、自衛隊に理解を示すだけでも、彼らにとっては十分です。
民間より福利厚生と待遇で劣り、理解を示さない社会だったら?
あえて自衛隊という職業を選び、国のために働く若者は減るでしょう。リスクの高い職業である限り、それに見合う収入のみならず、社会からの評価がないと、なかなか人材を確保できません。


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