歴史カードの効果は薄れた
中国は対日批判を繰り出すとき、歴史カードで過去の行動を持ち出して、日本の印象を下げようとします。現在と過去の日本を結びつけたうえ、「日本=悪」の記憶を呼び起こしたり、再び軍国主義化すると煽ってきました。
ただ、歴史カードも以前ほどは役立たず、その効果は年々薄れています。
世代交代とともに記憶が薄れゆき、最近は中国自身が拡張主義に走って、周辺国を恫喝しているからです。
対照的に日本は戦後80年も平和を守り、軍事的な脅威を与えていません。
日中の対照的な姿を見れば、中国の対日批判など誰も信じず、同調するのは北朝鮮・ロシア、たまに韓国ぐらいです。
そもそも、中国でさえ自らの主張を信じておらず、あくまで外交のカードとして、国内向けの喧伝に使えるから、叫んでいるにすぎません。愛国教育を受けた人民はともかく、中国共産党は本気で日本を脅威とは思わず、歴史問題も内心はどうでもいいでしょう。
WW2では「日本=悪」
他方、中国の扇動は腹が立ち、当然反論したくなります。
ただし、外交はしたたかさが欠かせず、歴史戦では細心の注意が必要です。
なぜなら、歴史問題では日本は「悪」になるから。
日本側の事情や解釈はどうあれ、「大日本帝国はヒトラーと手を組んだ悪者」、というのが世界の共通認識。特にアメリカからすると、第二次世界大戦は正義の戦争であって、大衆にウケやすい勧善懲悪のストーリです。
アメリカの歴史観では日独伊は悪者
真珠湾攻撃などで最初は苦戦するものの、国民の努力と勇気で乗り越えながら、最後は悪いナチスと日本をやっつけた。自分たちの正義を勝ち誇るには、分かりやすい悪役が必要であって、ナチスドイツの非道ぶりが目立つとはいえ、その同盟国だった日本も同類扱いです。
その後の戦争と比べても、第二次世界大戦の印象は際立ち、それは国民的物語といえるほど。朝鮮戦争は消化不良に終わり、ベトナム戦争では不正義と敗戦を味わい、湾岸戦争は圧勝すぎて物足りず、イラク・アフガニスタンも敗北に近い形で撤退。
だからこそ、第二次世界大戦の正義感と勝利が目立ち、いろいろ分断されたアメリカ社会において、国民の歴史観が一致するテーマです。
もちろん、実際はシンブルな「正義vs悪」ではなく、日本には日本の事情がありました。しかし、歴史は勝者を作る以上、敗者の言葉は聞き入れられず、日本人として思うところはあれども、こればかりは仕方ありません。
歴史戦で米中は同じ陣営
そして、第二次世界大戦の話になると、アメリカと中国が同じ陣営になります。
当時の中国は国民党率いる中華民国(=台湾)ですが、中国共産党も日本軍とは戦っており、対日戦ではアメリカと同盟関係にありました。その後、中華人民共和国が「中国」の立場を引き継ぎ、国連の常任理事国になった以上、歴史戦で米中は同じ陣営になります。
つまり、米中は同じ側で「正義の戦争」を戦い、その正当性に疑問を投げつければ、戦後秩序を否定するように映り、現在の日本の立場を悪くするだけ。
したがって、日本は歴史戦の土俵には乗らず、戦後ひたすら平和主義を貫いた実績、秩序を守る「現在」のアピールに徹すべきです。
いまやるべきは自ら過去は蒸し返さず、あくまで戦後と現在に焦点をしぼり、平和路線を歩んできた日本に対して、拡張主義に走る中国を対比させること。そうすれば、今度の日本は「正しい側」に立ち、逆に中国を秩序に対する挑戦者として描けます。
80年前の歴史戦では勝てないからこそ、次の戦後に向けて行動せねばならず、冷徹なリアリズムが欠かせません。
首相の靖国参拝は「悪手」
このような前提をふまえると、首相の靖国参拝は国内向けはともかく、対外的には悪影響しかありません。
外交的にはデメリットの方が大きく、中国に歴史カードを切らせてしまい、日本の立場を悪くします。
せっかく自由と民主主義の旗を仰ぎ、日本は変わったとアピールしてきたのに、その努力を台無しにしかねません。
首相の靖国参拝
首相の靖国参拝にせよ、先の大戦に対する反論にせよ、その気持ちは理解できます。
日本のために亡くなった英霊を弔う。これは当たり前の行為です。
私個人の心情をいえば、総理大臣はもちろん、天皇陛下にも参拝していただき、御霊を鎮魂してほしいと思います。
しかし、心情を優先させてしまえば、相手につけ入る隙を与えたり、世界の同情を誘い、結果的に日本の国益を損なうだけ。
歴史問題になると、アメリカは「味方」にはなれず、日本に勝ち目はありません。
日本の立場を悪くしてまで、首相が靖国を参拝すべきか?
日本が不利になる状況を英霊たちは望むだろうか?
靖国参拝に限らず、こうした行為は保守派の溜飲が下がり、彼らの支持につながるでしょう。
ところが、実際に得られる「実益」はそれぐらいしかなく、引き換えに外交で不利になります。あえて心情抜きで言うと、リスクに対する政策効果は低く、割りに合わないと考えます。
いま優先すべきはリアリズムに基づいて、現在の日本は自由・民主主義を守り、逆に中国がそれに挑戦している、という構図を作ることです。


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