能力・練度を左右する問題
自衛隊は高性能な装備を使い、高い練度を誇るにもかかわらず、「弾薬不足」という致命的な欠点を抱えてきました。
いくら優れた兵士と武器があっても、弾薬不足では能力を発揮できず、自衛隊は慢性的な予算不足により、弾薬の備蓄量が足りていません。
ことわっておくと、弾薬にも消費期限があるほか、受注生産になることから、危機が近づくにつれて、有事向けの生産体制に移行します。
しかし、日本は普段の射撃訓練で使う弾すら足りず、練度向上の阻害要因になっています。
「たまに撃つ、弾がないのが、玉に瑕」という川柳のとおり、実弾射撃の機会は少なく、そこで撃てる弾数は十分とはいえません。
少ない弾数が「一撃必殺」につながり、職人技のような練度を生むものの、そもそも軍隊は「ひとりの達人」ではなく、「平均技量の高い集団」を目指します。
個々人の能力を結合する以上、隊員の平均能力を高めねばならず、個人に頼る状態は組織として未完成です。
現状の弾薬不足をふまえると、充実した正面装備とは違って、全体の継戦能力は低く、長期戦に耐えられる体力がありません。
かつてソ連が攻めてきた場合、弾薬を「空自が3時間、海自が3日、陸自が3週間」で撃ちつくすと言われていました。冷戦終結にともなって、防衛費は2010年代まで徐々に減りゆき、弾薬不足に拍車をかけてました。
安全保障環境の悪化を受けて、防衛費は一転して増加したとはいえ、まだ弾薬備蓄量は足りておらず、作戦を長期間遂行できる兵站能力はありません。
とある試算によると、現状では南西諸島で有事が起きた場合、継戦能力は2ヶ月弱しか持たず、ウクライナのような長期戦は戦えません。
増産と弾薬庫を増設
このような弾薬不足に対して、ようやく日本政府も危機感を抱き、防衛費の大幅増額とともに、弾薬備蓄量の拡充に動き出しました。
2023年度だけを見ても、トマホーク巡航ミサイルなどの購入も合わせると、弾薬関連予算は約4倍の8,000億円になりました。
さはさりながら、いざ本格的な戦闘になれば、トマホーク400発は3〜4日で底を尽き、他の長射程ミサイルを加えると、1,500発以上は配備予定ですが、この数は上方修正されるかもしれません。
現代戦における弾薬消費量はすさまじく、台湾有事では大量のミサイルが飛び交い、あっという間に足りなくなるでしょう。
そして、これはミサイルに限らず、全ての弾薬に通じることです。
ロシア=ウクライナ戦争を例にあげると、1日の砲弾消費量は数千〜数万発になり、ウクライナは米英を含む西側諸国の支援により、なんとか継戦能力を維持してきました。
ところが、あの圧倒的物量を誇るアメリカですら、155mm弾の備蓄が枯渇しており、ロシアも北朝鮮に頼らないといけないほど、砲弾不足に悩まされています。
このような事態を目の当たりにした結果、日本は国が主導して火薬工場をつくり、民間企業に生産を委託することにしました。あらかじめ生産量を示して、全部買いとることから、事実上の「工廠」といえるでしょう。
先に述べたとおり、消費期限のある弾薬は受注生産になるため、今回の増産方針は日本政府の切迫感を表しています。
また、弾薬備蓄量もさることながら、その保管倉庫を分散して置き、一挙に失うリスクを低減せねばなりません。全国の基地・駐屯地に約1,400棟の弾薬庫がありますが、冷戦期の名残で備蓄量の7割が北海道に集中しています。
それゆえ、弾薬庫を130棟も増設するとともに、北海道への集中配備を改めるべく、南西諸島への分散配置を進める方針です。
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