犯罪捜査権を持つ「憲兵」
自衛隊は一般企業にはない「武力」を持つがゆえに、厳格な規律および秩序(服務規律)を維持せねばなりません。
しかし、約22.5万もの人員を抱える巨大組織では一定数の違反がどうしても発生するうえ、駐屯地や基地といった閉鎖的な環境で活動しています。
さらに、強力な武器と多くの軍事機密を抱える組織の性質上、一般警察では対応しきれず、自衛隊特有の事情を理解できる専門警察がいるわけです。
そのため、組織内の違反行為・犯罪を取り締まる独自の警察部隊、「警務隊」が設けられており、自衛隊の敷地や施設などで起きた事件の捜査権限を有するのです。
これは他国で言うところの「憲兵(MP)」に該当するもので、国内法上は「特別司法警察職員」として逮捕や捜査、取調べ、そして検察庁への送致を行えます。こうした立場から、独自の警察手帳も持っていて、通常の自衛官とは明らかに異なる職種です。
一方、戦前の悪名高い憲兵隊のように一般国民に対する権限は基本的になく、自衛隊施設内で犯罪を起こした場合に限定されます。それでも、自衛隊には諸外国のような「営倉(懲罰房)」「軍法会議」がないので、捜査後は警察もしくは検察にさっさと身柄を引き渡すしかありません。
重大事件は対応できず?
このように限られた範囲での独自捜査権があるものの、実際に対応する事案の多くは窃盗事件や敷地外への脱走(脱柵:だっさく)です。自衛隊員が同僚の現金を盗んだ不祥事がときどき報道されますが、これらも警務隊が独自に捜査したもの。
ただし、重大事件に関しては警察と協力するケースが多く、2023年6月に発生した自衛官候補生による教官射殺事件も警察との合同捜査になりました。これは外部に対する透明性の確保に加えて、この件が警務隊の手には余るという事情があります。
そもそも、警務隊にはこうした事件を処理するための能力が不十分で、殺人事件の捜査で行う鑑識と司法解剖用の機材設備がありません。したがって、警務隊の捜査能力は窃盗や軽犯罪などを想定したもので、殺人のような重大事案は警察に協力依頼します。
高官やVIPの車両警護も
上記の説明から警務隊は事件捜査のイメージが強いものの、防犯活動や敷地内の交通統制、自衛隊高官とVIPが乗った車両の警護なども仕事の内です。
特に、陸上自衛隊の警務隊には重要車両を誘導・警護する専用の白バイ「警務隊オートバイ」も配備されていて、レア車両として一部マニアに人気があります。
警務隊に入れる条件
さて、警務隊は当然ながら誰でもなれるわけではなく、さまざまな条件が求められます。
まず、正式な「警務官」は任期制の「士」ではなれず、いわゆる正社員にあたる「三曹」からしかなれません。そして、「特別司法警察職員」という立場上、自衛隊法以外にも警察官としての職務執行法も知る必要があり、法律知識の吸収と試験の突破がハードルとなります。
こうした法律に強い「頭脳」とともに、いざという時に相手を確保するための「体力」も重要です。このあたりは通常の警察官と同じですが、一般人よりも屈強な自衛官を相手にするという意味では、よりタフな身体が求められるかもしれませんね。
コメント