バルト海が「NATOの湖」に
先ほど、スウェーデンとフィンランドの加盟でNATOのバルト方面が強化されると述べましたが、これはロシアにとっては以下の2つを意味します。
- カリーニングラード(飛び地)の完全孤立化
- バルト艦隊の無力化
第二次世界大戦でドイツに勝利したソ連は旧東プロイセンを領土化してカリーニングラードとしました。しかし、ソ連崩壊でバルト三国が独立したところ、「飛び地」としてバルト三国とポーランドの間に取り残されました。
孤立した領土となった一方、これはNATOの横っ腹に刺さったトゲのようなもので、ロシアもここにバルト艦隊(あの日露戦争のバルチック艦隊)を集結するなど、それなりの軍事力を配置してきました。
いざという時には、この飛び地とロシア本国でバルト三国を挟み撃ちにして、短期間で占領するつもりだったそうです。
ところが、スウェーデンとフィンランドの加盟でバルト海は「NATOの湖」となり、貴重な飛び地の完全孤立化をもたらしました。
この状況でバルト侵攻に動けば、バルト海を挟んだところにあるNATO軍の増援(航空機や艦艇、ミサイル)によって海上・航空優勢を奪われ、挟撃するどころではなくなります。
そして、肝心のバルト艦隊は出撃したところで、たちまちNATOの対艦ミサイルや潜水艦の餌食になります。
すなわち、スウェーデンとフィンランドの加盟は、ただでさえ封じられ気味だったバルト艦隊を事実上「無力化」させました。
ロシア海軍の目は東へ?
では、今回のNATO拡大は日本にどのような影響があるのか?
まず、国際秩序に挑戦したロシアに対して、NATOが抑止力を高めるのは同じ西側陣営の日本としては歓迎すべきでしょう。そして、NATOの戦力強化が欧州地域の安定化につながり、アメリカが少しでも対中国にシフトできれば、日本の国益にも適います。
日本にとって基本的には好ましい反面、ひとつ懸念されるのがバルト艦隊の無力化を受けて、ロシア海軍が東の太平洋艦隊に力を入れることです。
バルト艦隊の存在意義が失われた結果、ロシアは別方面の海軍戦力を強化するかもしれません。
そうなると、北方艦隊あるいは太平洋艦隊が有力なわけですが、太平洋艦隊の強化は対中国に忙殺される海上自衛隊の負担を増やすだけなので、ぜひ避けたいところ。
しかしながら、ウクライナ侵攻で自慢の陸軍をすり減らし、膨大な戦費と経済制裁に苦しむ今のロシアには、とても海軍に注力する余裕などありません。
どのような形で終わるにせよ、戦後ロシアは疲弊した経済と陸軍再建を優先せねばならず、海軍は後回しになるはずです。
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