欧州最強の陸軍へ
ロシアによるウクライナ侵攻は世界中に衝撃を与え、欧州諸国の軍備強化を加速させる結果となりました。
ドイツが軍事予算を大幅増額したり、中立だったスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟するなか、ウクライナに隣接するポーランドは突出した軍拡路線を進めています。
それは他国をはるかに凌駕する勢いで、兵力をいまの2倍にあたる約30万人にまで増強するとともに、軍事予算もGDP比で4%まで引き上げました。
特に陸軍戦力はアメリカや韓国からの「爆買い」によって欧州最強になりますが、5〜6兆円規模になるその買い物リストは以下のとおりです。
M1A2エイブラムス戦車(米) | 約360両 (うち250両は最新型の「SEPv3」) |
HIMARS高機動ロケット砲(米) | 18両+発射機468個 |
AH-64Eアパッチ攻撃ヘリ(米) | 96機 |
K2戦車(韓) | 約1,000両 |
K9自走榴弾砲(韓) | 約650両 |
KLTV 軽装甲偵察車両(韓) | 400両 |
KA-50軽戦闘攻撃機(韓) | 48機 |
上の表からもわかるように、もはや一国の陸軍戦力を丸々買うようなもので、すでに運用中のF-35ステルス戦闘機やレオパルト2戦車と合われば、世界トップクラスの軍事力になります。
ちなみに、ポーランドの現有戦力は戦車650両、火砲800門、戦闘機94機、攻撃ヘリ28機となっており、旧ソ連製と西側製のものが混じっている状況。
このうち、戦車を含む多くの旧ソ連製兵器をウクライナに供与したため、最新の西側兵器で一気に補充・拡大、そして近代化するつもりです。
パレードに登場したK2戦車(出典:ポーランド軍)
放出した旧ソ連戦車を現代最強と謳われる「M1A2エイブラムス」、海外輸出で高評価の韓国製「K2戦車」で穴埋めするのですから、戦車戦力だけでも質・量ともに飛躍的向上を果たします。
しかも、2026年までに陸軍を欧州最強にすると明言していて、すでに戦車と自走砲の納入が始まりました。この調達スピードの速さは延々と進まないドイツの軍拡とは対照的で、早期納入に定評のある韓国製兵器が選ばれた理由でもあります。
むろん、これら兵器で使う各種弾薬も購入済みであり、特に目玉として挙げられているのが、HIMARSから発射する短距離弾道ミサイル「ATACMS」です。
悲劇を繰り返さない決意
さて、こうしたポーランドの大軍拡路線は隣国・ウクライナがロシアに侵略されたことに対する自然な反応です。ポーランドとしては「次は自分たちの番」という危機感が高まったのは間違いありません。
ただ、この地理的要因に加えて、歴史的背景も強く作用しています。
ポーランドとロシアは互いに何度も戦ってきた歴史を持ち、近代〜近現代ではロシアによる侵略・抑圧を受けてきた「禍根」があります。
それは18世紀末のロシア、プロイセン、オーストリアによるポーランド分割から始まり、20世紀にようやく独立を果たした後も、ソ連がナチスドイツとともに侵攻してきました。
しかも、この1939年の侵略では捕虜が多数虐殺される「カチンの森事件」が発生しています。
その後、ナチスの支配からは解き放たれたものの、今後はソ連の影響下に置かれて冷戦終結まで人々は抑圧され続けました。
こうした悲運の歴史を抱えるポーランドは、ソ連崩壊後の新生ロシアに対しても不信感と警戒感を持ち、今回のウクライナ侵攻でそれは決定的となりました。
したがって、悲劇を繰り返さないためには「欧州最強の戦力」を持ち、いざというときは遺恨を晴らせるだけの実力を確保するつもりなのです。それは身をもって支配と抑圧を味わった民族が導き出した「答え」といえます。
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