F-35を諦めたヘリ空母
オセアニア方面の盟主であるオーストラリアは、いざという時に同地域の治安維持などを求められる関係上、揚陸艦艇を中心とした一定の戦力投射能力を維持してきました。
そして、現在その中核となっているのが同国史上最大の軍艦で、2014年に登場した「キャンベラ級」強襲揚陸艦です。
「ホバート級」イージス艦と並んでオーストラリア海軍の誇りともいえる2隻の強襲揚陸艦は、高い輸送力と航空運用能力を両立させた船として重宝されています。
- 基本性能:「キャンベラ級」強襲揚陸艦
排水量 | 27,500t(満載) |
全 長 | 230.8m |
全 幅 | 32m |
乗 員 | 約300名 |
速 力 | 20.5ノット(時速38km) |
航続距離 | 9,250浬(約17,000km) |
兵 装 | 25mm機銃×4(遠隔操作式) 12.7mm機銃×6、デコイ発射機 |
輸送力 | 兵員1,000名 車両110両以上 |
艦載機 | ヘリコプター12〜18機 |
搭載艇 | 上陸用舟艇×6、高速ゴムボート×4 |
建造費 | 1隻あたり約1,500億円 |
この強襲揚陸艦は豪州首都の名前を持ち、老朽化した揚陸輸送艦の後継として建造されたもので、設計上はスペインの強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」の準同型艦になります。
全通式の飛行甲板には6つのヘリコプター・スポットが設けられており、中型輸送ヘリを中心に12〜18機を搭載可能です。さらに大型のCH-47ヘリやV-22オスプレイも離着陸可能ですが、この場合は搭載数が減ってしまいます。
また、固定翼機の運用を考えて、左側前部には12度の傾斜を持つスキージャンプ台が設置されたり、2基ある埋込式エレベーターのうち後部の1基は大型機にも対応したサイズになっています。
しかし、当初目指していたF-35B戦闘機を載せるには、甲板の耐熱化、誘導装置や燃料タンクの増設などの追加費用がかかるため、最終的には改修をあきらめてヘリ専用となりました。
このあたりがF-35Bも使うスペインの「ファン・カルロス1世」との違いです。
豊富な輸送力と指揮機能
一方、揚陸艦としての能力は申し分なく、人員1,000名とその個人装備、車両110両以上を搭載できます。人員だけに限れば最大1,600名まで運べるそうで、有事ではオーストラリア軍だけでなく、密接な関係にあるアメリカおよびイギリス海兵隊の乗船も想定しています。
車両スペースについては、軽車両と重車両(戦車など)に分かれているとはいえ、連絡用ランプを通じてそれぞれ船内移動が可能です。しかも、重車両向けに2基のサイド・ランプが右側に設けられているので、戦車もそのまま自走して乗船できます。
さらに、全長の30%も占めるウェルドックは、最大6隻の上陸用舟艇、4隻の高速ゴムボートを収容できる広さが確保されていて、LCACエアクッション型揚陸艇にも対応しています。
ほかにも、2つの手術室と40個の病床を中心とした医療設備を持ち、太平洋諸国への災害派遣や医療活動で活躍してきました。
このように充実した輸送能力と医療機能を与えられた「キャンベラ級」は、水陸両用作戦を含む各任務では艦隊旗艦としての役割も果たします。
したがって、新しいレーダーと戦闘指揮システム、統合航法システム、通信システムによって司令部機能が大きく強化されました。
結果的に「キャンベラ級」は従来型と比べて多用途性に富む揚陸艦となり、多様化する任務への対処能力を獲得しました。それは島国だらけのオセアニア地域に必要な能力で、特に災害派遣では重宝されるものばかりです。
とはいえ、予算難に苦しむオーストラリアに大型艦を運用する余裕はあまりなく、「キャンベラ級」も議会などでしばしば批判されてきました。それは維持費の高さのみならず、戦時で高価値目標になることから生じた懸念であり、運用面における不安定さは拭えません。
それでも、今やオーストラリアは対中国戦略で日米と並ぶ重要な位置を占めていて、同国の海軍力強化は日本としても歓迎すべき事象です。すでに準同盟関係を構築している日豪両国ですが、日本版海兵隊の水陸機動団が「キャンベラ級」を使って展開するような状況も考えられます。
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