国境の島・対馬
長崎県・対馬といえば、朝鮮半島への中継地であるとともに、大陸からの侵略で真っ先に狙われてきた地でもあります。
「刀伊の入寇」と呼ばれる女真族の侵略、二度にわたる元寇での惨劇、そして幕末のロシア軍艦の居座り事件など、まさに国防の最前線に立たされてきました。
こうした歴史からか、対馬の人々は本土よりも国防意識・危機感が高く、多くの韓国人観光客でにぎわう現在もそれは変わりません。釜山から高速フェリーで1時間ほどの対馬には、毎年40万人近い韓国人観光客が訪れていて、2.6万人の島民を圧倒しています。
数年前にはなりますが、筆者も現地を訪れたとき、あちこちにハングルで書かれた看板があって、韓国人が経営する飲食店や宿泊施設も多くありました。島民に話を聞いたところ、多くの観光客が来るのは嬉しいものの、やはり日本人にもっと来てほしいというのが本音でした。
最前線を守る精鋭たち
当然ながら、国境の島・対馬には自衛隊と海上保安庁が配備されており、前者については陸海空それぞれが駐屯しています。
航空自衛隊が釜山を目視できる海栗島にレーダーサイトを構え、海上自衛隊が特殊望遠鏡や海底ソナー網(SOSUS)を使って対馬海峡を監視するなか、島の守備隊といえるのが陸上自衛隊の対馬警備隊です。
「ヤマネコ軍団」とも呼ばれる対馬警備隊は、普通科中隊(歩兵)を基幹とした約350名の小規模な部隊で、その駐屯地は日本で2番目に小さいものです。
しかし、警備隊長には1等陸佐(大佐)があてがわれるなど、連隊と同格扱いの特別部隊でもあり、小さいながらも火力や後方支援能力が強化されています。
配下の小銃小隊も通常の3個編成ではなく、4個の特別編成になっていたり、情報通信や対戦車小隊に加えて、施設作業小隊(工兵)や衛生小隊、狙撃班も配備されました。
そして、保有装備も01式軽対戦車誘導弾から87式対戦車誘導弾、120mm重迫撃砲、中距離多目的誘導弾など小部隊とは思えない充実ぶりで、所属隊員の多くもレンジャー資格を持っています。
対馬は南北82km、東西18kmと意外に大きく、山がちな地形をしていることから、対馬警備隊は本土からの増援が来るまで遅滞戦闘とゲリラ戦で持ちこたえるのが任務です。
部隊規模の割には人員・装備などで恵まれているのが特徴で、組織的には第4師団(福岡県・春日市)の傘下でありながら、その実態は離島防衛を想定した独立警備部隊です。
自衛隊増強を望む対馬
そんな対馬警備隊に対する住民感情は極めてよく、陸自側も島内行事への参加・協力を通じて良好な関係を築いてきました。
人口が少ない国境の島にとって、やはり自衛隊がいる安心感は大きく、若年人口を支えている側面もあります。
こうした事情を受けて、地元議会などはむしろ自衛隊増強を望んでいて、連隊規模の部隊配備を目指した要望書も出しています。
少子化と南西シフトが進むなか、対馬方面を強化する余裕はそこまでありませんが、朝鮮半島に近く、重要海峡の真ん中に位置する対馬の戦略的重要性は軽視できません。
休戦状態の朝鮮戦争が再開すれば、対馬が日本にとっての最前線になり、避難民が押し寄せたり、最悪の場合は戦火に巻き込まれるかもしれません。こうした有事の混乱を考えれば、対馬警備隊の重要性はかなり高く、少なくとも大隊規模までは増強すべきでしょう。
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