弾道ミサイルを捉える移動基地
北朝鮮による弾道ミサイル発射が常態化するなか、これを確実に捉える能力がさらに重要となりました。こうした追跡・監視任務は地上レーダーやイージス艦の出番ですが、移動できない前者は地平線による制約を受けやすく、後者は搭載レーダーの大きさ・出力から探知範囲が限られています。
もちろん、イージス艦は優れた探知能力を持ち、弾道ミサイルを迎撃するときには欠かせません。ただし、大陸間弾道ミサイルのようにはるか彼方まで飛んでいく場合、イージス艦が誇るレーダーをもってしても、着弾地点までは追跡しきれないことがあります。
そこで、アメリカ海軍は「ミサイル追跡艦」という特殊な船を使って、弾道ミサイルの発射をすばやく捉えたあと、宇宙空間も含めてその飛翔ルートを確実に追跡します。
このミサイル追跡艦は相手のロケットやミサイルの性能を調べるうえで役立ち、冷戦期は複数が運用されていたのみならず、米陸軍や空軍も同じような船を持っていました。
しかし、現在は「ハワード・O・ローレンツェン」という1隻のみが米海軍で活動している状況です。
- 基本性能:ハワード・O・ローレンツェン
排水量 | 9,543t(基準) |
全 長 | 163m |
全 幅 | 27m |
乗 員 | 88名 |
速 力 | 20ノット(時速37km) |
2012年に就役したアメリカの最新ミサイル追跡艦「ハワード・O・ローレンツェン」は、かつて米海軍の電子戦技術に大きく貢献した軍人からその名前を得ました。
その特徴はなんといっても、船体後部にある2基の巨大レーダーであり、これは弾道ミサイルを発射から着弾まで切れ目なく監視できる「コブラキング」という高性能レーダーです。
重さ200トンのコブラキングは「Sバンド」「Xバンド」の双方に対応したレーダーですが、これは前者が多目標の探知・追跡に向いているのに対して、後者は特定の目標に関する精密追跡を行えます。よって、コブラキングの搭載によって、それぞれの特徴を活かした追跡が可能になりました。
地上基地にあるようなレーダーを船に載せたことで、海上移動できるレーダー基地になったわけですが、この機動力こそミサイル追跡艦の強みといえます。いわば、前述の地上レーダーとイージス艦の長所をそれぞれかけ合わせた形です。
ミサイル発射の兆候をつかめば、ミサイル追跡艦は周辺海域まで出向いて待ち構えます。そして、発射後は直ちに追跡を行い、ミサイルの飛翔ルートからその性能を分析・評価するのが仕事です。
基本的には弾道ミサイルの監視任務に就いているものの、ほかにも充実した通信能力を使って、敵国の電波情報を集めているとされています。
こうした特殊任務には専門家が必要ですが、ミサイル追跡艦には船を操作する乗員のほかに、複数の政府機関から技術者が乗り込み、米空軍・宇宙軍とも密に連携しています。
民間船のような見た目
当然ながら、こうした任務は極秘中の極秘であって、ミサイル追跡艦の動向はできる限り秘匿されます。また、民間船を装って一般の目をごまかすために、軍艦でありながら船体は白く塗装されました。
よって、仮に見かけたとしても、その見た目は軍艦というよりは海洋観測船に近く、ミサイル追跡艦というのは一般人にはなかなか思いつきません。
近年は北朝鮮対応のために日本海に出動するケースが多く、数週間にわたって監視活動をしたあと、横須賀や舞鶴への寄港時にしばしば目撃されています。
また、同盟強化に向けて米海軍の大型艦船を日本でも修繕できるようになりましたが、「ハワード・O・ローレンツェン」はさっそく尾道の民間ドックに入っている姿が確認されました。
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