砲弾生産量では有利
戦車や装甲車、火砲は遺産頼りのなか、自力生産でひときわ目立つのが砲弾です。
ロシア=ウクライナ戦争では激しい砲兵戦が行われており、1日に放たれる砲弾数は数千発、多いときは万単位になります。それは両軍死傷者の80%の原因とされるほどですが、こうした火力勝負では「数」が物を言います。
この点では、ロシア単独で年間300万発の砲弾を生産できるのに対して、西側諸国は合わせても120万発ほどです。
これにはいくつかの理由がありますが、まずロシアは旧ソ連時代から火砲重視の戦略を持ち、冷戦後も法律で生産設備を無理やり維持させました。このような姿勢は「需要と供給」という経済原理を無視したものでしたが、それが戦時の砲兵戦で功を奏したわけです。
たとえば、1994年の第一次チェチェン紛争での砲弾消費量は最大3万発/日でした。これは1991年の湾岸戦争におけるアメリカの総消費数6万発と比べると、やはり次元が違います。
露宇戦争は火砲の重要性を再認識させた(出典:ウクライナ軍)
他方、西側諸国は精密誘導兵器に軸足を移すとともに、対テロ戦争が始まるとインテリジェンスや特殊部隊の役割が増大します。こうした非正規戦では大規模砲兵戦が起こらず、砲弾についてもエクスカリバー誘導砲弾のような「少数生産・高性能」を志向しました。
なによりも、アメリカとその同盟国は、米軍がもたらす航空優勢と手厚い航空支援を期待できます。
だからこそ、ロシアと比べてそこまで砲弾生産を重視してきませんでした。
さらに、冷戦後の軍縮機運を受けて、アメリカでは軍需産業の整理・統合が進み、高性能兵器の少数生産体制に移行しました。その結果、今回のような突発的な砲弾需要に対応できなくなり、火砲重視体制を維持してきたロシアとの差が出ました。
まさか再び第一次世界大戦さながらの砲兵戦になるとは思っていなかったのです。
砲弾はあるが、砲身がない
一方、視点を砲弾からそれを発射する火砲に移すと、ロシアは「砲身」が足りていません。
毎日のごとく大量の砲弾を撃てば、どんな火砲も砲身劣化は避けられず、わずか数ヶ月で砲身交換が必要となります。
しかし、ロシアの砲身生産量は年間100本に過ぎず、多く失った火砲を置き換えるどころか、いまある火砲の砲身交換すら対応できていません。
これはロシア国内に生産拠点が2つしかなく、どちらも肝心な製造工程をオーストリア製の機械に頼っているからです。輸入機械への依存にもかかわらず、新しい機械や予備部品を中立国のオーストリアから取り寄せるのは難しく、代替技術の目処も立っていません。
まとめると、砲弾はたくさんあっても、それを撃つための砲身は多く作れず、なんとかは倉庫から砲身だけを引っ張ってきてしのいでいる状況です。前述の戦車や装甲車と同じく、こうした「遺産頼み」が長く続くわけもなく、あと2〜3年で限界を迎えるだけでしょう。
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