アメリカ海兵隊の新しい水陸両用戦闘車「ACV」とは?

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海上機動力は遅くなった

敵前上陸を試みる米海兵隊では、長らく「AAV-7」という水陸両用車を使ってきましたが、その後継となる新しい「ACV」へと移行中です。

これは「Amphibious Combat Vehicle(水陸両用戦闘車)」の略称で、イギリスのBAE社が開発しました。

  • 基本性能:ACV
重 量 35t
全 長 9.2m
全 幅 3.1m
全 高 2.9m
乗 員 3名+同乗13名
速 度 地上:時速105km(整地)
水上:時速11km
行動距離 約520km(整地)
兵 装 12.7mm機関銃
7.62mm機関銃
価 格 1両あたり約8億円

近年の米海兵隊はイラクやアフガニスタンなどの地上任務が多く、ほとんど「第2の陸軍」と化していました。その結果、戦車とともに行動できる地上機動力が重視されるようになり、キャタピラ式のAAV-7ではなく、タイヤ式車両が好まれるようになりました。

そこで、海兵隊向けに新たに装輪式の水陸両用戦闘車を作り、上陸能力を担保しながら、その地上機動力を高めようとしました。ただ、予算や技術的な制約から、新型車両は大きく2つのタイプ(フェーズ)に分けられました。

初期タイプは舗装路を時速105kmで走れる一方、水上航行力はAAV-7よりも2km遅くなり、時速11kmにとどまっています。これは地上機動力を優先したのに加えて、ホバークラフト(LCAC)や高速揚陸艇での上陸を想定したからです。

よって、AAV-7のようなウォータージェット推進ではなく、普通のスクリュー推進に変えており、代わりに対地雷設計や車底部分の引き上げが行われました。

その機動力を支えるのが8つの大きなコンバット・タイヤですが、一般的には砂浜や泥沼化した土地ではキャタピラ式の方が役立ち、装輪式は不利とされています。しかし、近年のタイヤ技術の進歩を受けて、35トン級の装甲車両であれば、タイヤ式で問題ないと考えたようです。

地上走行に適したACV(出典:米海兵隊)

ところが、対中国戦に向けた島嶼戦が予想されるなか、海兵隊は戦車大隊を廃止したり、高機動なミサイル車両やドローンを導入するなど、新しい時代を迎えました。

そうなると、水上航行力を再び重視せねばならず、初期タイプでは能力不足との声も出ています。

そこで、期待されているのが2つ目のタイプ、いわゆる「フェーズ2」です。

この改良型は沖合の揚陸艦から発進したあと、海上を時速24kmで進む性能を目指しています。しかし、これは未だに構想段階であって、実際に開発・量産されるかは分かりません。

しばらくは初期タイプのACVを使うわけですが、そもそも米海兵隊が進めている構想では高速揚陸艇や空輸による機動展開を想定しています。むしろ、上陸後に島嶼内を軽快に走り回り、敵に捕捉・撃破されないようにする方が重要になりました。

また、太平洋戦争のような大規模な敵前上陸はあまり想定されておらず、本格的な戦力展開も海上・航空優勢の確保を前提としています。

そう考えると、現状のACVが持つ性能でも、運用上は大きな問題にはならないでしょう。

ファミリー化とその将来

さて、ACVは兵士を運ぶべく作られたとはいえ、その輸送人数はAAV-7の21人から大きく減って13人になりました。その代わり、予備弾や個人装備品、2日分の食料を置くスペースができたため、単独での作戦能力は高まった形です。

また、車両はいろいろ換装できるモジュール設計となり、兵員輸送タイプ以外にも、歩兵戦闘型、指揮通信型、偵察型、回収車両型などのバリエーションがあります。特に歩兵戦闘型の「ACV-30」は30mm機関砲を持ち、AAV-7よりは火力支援や敵との遭遇戦で頼りになります。

すでに各タイプの配備が始まり、いまのところは「兵員輸送型×390、歩兵戦闘型×175、指揮通信型×33」という量産計画です(今後も増えるはず)。

沖縄の海兵隊もACVを配備するなか、その成否はAAV-7を使っている自衛隊の水陸機動団にも関わってきます。もし、ACVが期待通りの性能を示せば、米海兵隊との共同作戦を行う水陸機動団が、同じく導入する可能性は高いでしょう。

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