どうなるシリア内戦?アサド政権の崩壊と反政府勢力の勝利

シリアの国旗 外国
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政治的に安定できるか

さて、アサド政権崩壊にともない、シリアは新体制に移行しますが、安定した秩序を築けるかは分かりません。

いまは圧政からの解放を喜び、国外に逃げていた難民も戻りつつあります。難民の流入は欧州で大きな社会問題を生み、本音では帰国してほしいはずです。

そのためにも、新生シリアは政治的に安定せねばならず、新政権の責務は重大です。

旧政権の首相がダマスカスに残り、反政府側と協力しているほか、亡命先でアサド自身が政権移譲を表明したため、少なくとも新政権は正当性を確保しました。

しかし、国内の混乱が鎮まり、秩序回復への道は遠いです。

一応、HTS側はアルカイダとは距離を置き、旧政権への報復行為はせず、全ての宗派や民族のための統治を呼びかけました。いまのところ、女性の服装には干渉しないなど、元過激派からのイメージ刷新を図っています。

アメリカは新政権を承認したものの、HTSに対する警戒は解いておらず、テロ組織として指定したままです。指定解除は時間の問題でしょうが、正式に認めてもらうべく、HTS側も穏健化のアピールを続けています。

そうは言いつつも、末端の構成員まで統制できるかは怪しく、再び原理主義に走らず、穏健化路線を歩めるかは不透明です。

加えて、3つの主要勢力が入り混じり、その他少数民族の派閥とイスラム国の残党までいます。

宗教だけ見ても、イスラム教のスンニ派、シーア派、アラウィー派、さらにはキリスト教の各宗派。民族でいえば、アラブ人、クルト人、アルメニア人、ギリシア人等々。

彼らの武装解除したうえで、共存統治するのは容易ではなく、リビアのごとく分裂状態になる可能性が高いです。アサドという共通の敵がいなくなり、「呉越同舟」が終わった以上、その先行きは楽観できません。

シリア内戦の関係図複雑すぎるシリア内戦

しかも、政権崩壊後にトルコがクルド人部隊を襲い、アメリカがイスラム国の残党を空爆するなか、イスラエルはドサクサに紛れて侵攻中です。

イスラエルは反アサドだったとはいえ、それは表向きのスタンスに過ぎず、実際は都合のいい存在でした。イスラエルの本音では、過激派勢力が政権を握るよりも、アサド政権の方がマシだったといえます。

国内には旧政権のミサイルや化学兵器が残り、これらが変な勢力に渡るのを防ぐべく、イスラエルは各地の武器施設を空爆しました。この辺りはトルコも変わらず、クルド人勢力の拡大阻止をもくろみ、国境沿いの緩衝地帯の樹立を狙っています。

いろんな勢力が国内を治めようとするなか、トルコとイスラエルが北部、南部から侵攻して緩衝地帯を作るかもしれません。

恐ろしい地獄からの解放

混乱が続くとはいえ、アサド政権下で虐げられた人々は解放されました。

前述のとおり、アサド政権は恐怖政治を行い、一般人や人権活動家、反体制派を問わず、日常的な拉致・拷問を繰り返してきました。これは内戦発生後も変わらず、自国民に化学兵器すら使うなど、圧政の犠牲者数は最低でも30万人にのぼります。

現在、多くの刑務所や収容所が解放されるなか、その想像を絶する実情が暴露されています。

たとえば、サイドナヤ刑務所は「人間の屠殺場」という別名を持ち、あの「アウシュビッツ」のような蛮行が行われていました。

毎週のように組織的処刑を行い、その数は判明しているだけで1万3,000人です。不当拘禁したあと、すさまじい拷問で自白を強要したり、システマチックに身体的・精神的苦痛を与えてきました。

ここで生まれた子供は外界を知らず、数十年も監禁されていた人は「浦島太郎」状態です。解放された人々のうち、初代アサドの死去すら知らず、スマホを武器と思って怖がる人もいました。一部は問いかけに反応できず、自分の名前すら分からない廃人と化しています。

犠牲者の靴や衣服が積み上がり、痩せこけた廃人が解放される光景など、まさにアウシュビッツと同じです。それは人間の尊厳を奪い、無限の苦痛を与えるべく、巧妙に設計された絶滅収容所にほかなりません。

おそらく、1945年に連合国が絶滅収容所を解放したとき、似たような感じだったのでしょう。それが姿かたちを変えて、再び映像を通して目撃しているわけです。

この刑務所は複数の階層を持ち、まさに迷宮のような構造ですが、地下は特殊な電子鍵がないと入れず、地下牢だけで万単位の人々が暮らしています。それゆえ、ある階層を解放しても、まだ監視カメラには囚人たちが映り、実際の収容人数と広さが分かっていません。

なにより恐ろしいのが、このような収容所がほかにもあって、全体像がつかめていないことです。

セドナヤ刑務所サイドナヤ刑務所の衛星写真

こうした地獄に終止符を打ち、その実態がさらされただけでも、アサド政権の崩壊は正しいに決まっています。

また、残された政権側の資料に基づき、その恐ろしい弾圧の実態、化学兵器の使用経緯などが判明するでしょう。この点だけでも、政権崩壊の意義はあります。

今後の困難を考えれば、それは一時的な平和かもしれません。

それでも、半世紀にわたる独裁と抑圧、虐殺の時代が終わり、ひとまずの自由が達成されたのは歓喜すべきです。多くのシリア難民が祖国に帰り、ヨーロッパの社会不安を軽減できるかもしれません。

一方、アサド政権のおぞましい行為を知りつつも、国連や世界各国は介入せず、国際社会は事実上見捨ててきました(難民は受け入れたが)。この残酷すぎる現実も、われわれは忘れてはいけません。

自国民を大量虐殺したにもかかわらず、アサド本人がモスクワで余生を過ごすのはあり得ず、その人道上の罪は問わねばなりません。今後、恐るべき弾圧の事実が暴かれるに連れて、身柄の引き渡しを求める声は強くなるばかりでしょう。

しかしながら、ロシアが保護している以上、法の裁きを受けるのは無理です。

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