アメリカが描くシナリオ
さて、日本の態度は台湾防衛の成否を決める重要なものです。
まず、アメリカは中国の台湾侵攻に対して、日本から航空・海上戦力を出撃させて、ひたすら上陸部隊や輸送船団をたたきながら、中国の渡洋侵攻能力を奪います。多数の長距離ミサイルを放ち、中国の海上優勢を阻止するとともに、上陸部隊の兵站補給線を瓦解させる構想です。
ついでに説明すると、アラスカからも爆撃機が飛び立ち、ステルス・ミサイルで長距離攻撃を行うなか、島嶼部には米海兵隊を送り込み、高機動な対艦・対地攻撃兵器を展開させます。
米海兵隊はEABO構想に基づいて、あえて敵の攻撃圏内で活動しますが、南西諸島に分散配置したいのが本音です(沖縄の協力がハードル)。
沖縄周辺は「戦域」にならざるを得ない
まとめると、最初から長距離ミサイルの応酬になり、アメリカは中国の輸送船団を沈めて、その継戦能力を徹底的に削ぎます。
これが米台側のシナリオですが、日本はその大前提にあたる出撃拠点です。
逆にいえば、日本が基地の使用を許さず、非協力的な態度を貫けば、台湾は中国の手に落ちます。その実態は「台湾防衛の成否は日本の協力次第」といえるほど。
後方支援以上の役割を
米軍の出撃拠点に加えて、日本は重要な後方拠点になります。
1950年の朝鮮戦争時と同じく、米軍に対して補給・整備するとはいえ、あの時より役割は広がり、その重要性は劇的に増えました。
求められる最低限の役目をあげると、自衛隊による補給・輸送支援がありますが、南西諸島が戦域に入る以上、その戦火は自衛隊を直接的に巻き込み、中国軍と交戦状態になる可能性が高いです。
さらに、米軍が攻撃されているにもかかわらず、現場付近にいる自衛隊が何もせず、傍観するわけにはいきません。日本は在日米軍基地の共同防衛に加えて、安保法制で定めた「米艦防護」などに取り組み、いわゆる集団的自衛権を行使するはずです。
日本の集団的自衛権はアメリカを念頭に置き、密接な関係にある「他国」を対象にしています。台湾は厳密には「国家」ではなく、非国家主体という微妙な立場のため、集団的自衛権の行使は法制上は困難です。
だからこそ、アメリカが台湾に対して集団的自衛権を使い、そのアメリカに対して日本が集団的自衛権を行使する。この玉突き方式を通して、日本は間接的に台湾を守り、アメリカとの同盟における責務を果たします。
台湾有事での日本の役割といえば、ロシア=ウクライナ戦争でのポーランドにたとえる向きがありますが、実際にはウクライナ西部に近いです。
激戦地の東部と違って、ウクライナ西部は比較的平穏なため、重要な後方拠点になりました。されど、ウクライナ領であるのは変わらず、ロシア軍のミサイルは時々飛んできます。
日本も似た立場になり、補給戦と対潜哨戒、防空戦をしながら、戦況次第では米軍と一緒に戦い、いわゆる「参戦国」にならざるをえません。
最後に
どのみち、台湾有事では南西諸島が戦域に入り、日米同盟で事実上「参戦」する以上、この認識に基づく防衛準備とともに、国民全体の意識づくりが欠かせません。
現状では法整備が足りず、自衛隊の活動に限界をつくっています。明確な基準や線引きを示してこそ、自衛隊はその能力を発揮できるわけですが、現在は「フワッとした」認識しかなく、対応のぎこちなさと曖昧さを生むだけです。
厳しい現実にもかかわらず、国民的議論を先送りしてきたところ、全体の覚悟と準備が不足しています。
当たり前ですが、現実と願望の間にはギャップがあって、現実は我々の願望を考慮してくれません。



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