海上保安庁が困るだけ?
中国の海洋進出は海軍拡張にとどまらず、海警という沿岸警備隊にもおよび、日本の海上保安庁は劣勢を強いられています。尖閣諸島周辺で対峙するなか、海保側は長期戦にともなう疲弊、他海域での戦力不足に悩み、人手も巡視船も足りていません。
そこで、船舶不足だけでも補うべく、海上自衛隊の退役護衛艦をあてがい、巡視船に転用すべきとの声があります。
古いとはいえ、退役護衛艦の破棄はもったいなく、再活用したい気持ちは分かります。状況次第になりますが、その速力と通信機能、探知能力は役立ち、単純計算では戦力の足しにはなるでしょう。
しかし、実際にはデメリットの方が多く、過去の調査では「却下」されました。
能力をふまえると、退役護衛艦は海保の仕事には向いておらず、むしろオーバースペックな点が多いです。パトカーの穴埋めとして、戦車を持ってくるようなものです。
海保は法執行機関にあたり、普段から哨戒・警備を担うものの、本格的な交戦は想定していません。
それゆえ、あまり強力な武装と一部能力は必要なく、護衛艦の転用には改修が必要です。たとえば、巡視船にミサイルはいらず、対潜ソナーも出番がありません。
改修で海保仕様に合わせたり、不要な装備品を降ろすわけですが、管轄と組織体系が変わると、いろんな面倒ごとが生まれたり、現場での非効率につながります。
大きな相違点として、護衛艦と巡視船ではエンジンが異なり、前者はガスタービン式、後者はディーゼル式を使ってきました。
船の推進機関が違うと、その扱いと作業手順が変わってくるため、整備・補給での負担が増えてしまいます。ディーゼル・エンジンに慣れている以上、いきなりガスタービン式を渡されても、海保側は困るわけです。
結局、コスパが悪い。
そもそも、退役護衛艦は耐用年数を迎えており、その転用には前述の改修に加えて、船自体の延命工事が欠かせません。25〜30年も海を駆け巡り、あちこちが傷んでいるなか、使いつづけるのは相当な苦労を要します。
自動車でたとえると、10万km以上を走ったにもかかわらず、無理やり寿命を延ばしながら、別の目的でまだ使うイメージです。
簡単に「延命改修」と言っても、それは多くの時間とコストがかかり、最終的には新造巡視船の方が安かったりします。しかも、巡視船は最初から海保に最適化されており、最近は護衛艦より速く、通信と対水上探知でも大差ありません。
結局のところ、退役護衛艦の転用は費用対効果が悪く、運用上は混乱と非効率を招き、デメリットがメリットを上回ります。わざわざ老朽艦を改修するならば、その分のお金で巡視船を新規建造すべきなのです。

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