ABLレーザーを搭載
近年はレーザー兵器の開発が進み、特に巡航ミサイルやドローンを撃ち落とす場合、安価な迎撃手段として注目されています。
一方、対弾道ミサイルになると、SM-3のような迎撃ミサイルが主流ですが、過去には航空機にレーザー兵器を積み、空中で弾道弾を撃墜する構想がありました。
それがボーイングの「YAL-1」であって、アメリカが2000年代に開発した実験機です。
- 基本性能:YAL-1
| 全 長 | 70.6m |
| 全 幅 | 64.4m |
| 全 高 | 19.4m |
| 乗 員 | 6名 |
| 速 度 | 時速1,010km |
| 航続距離 | 約14,000km |
| 高 度 | 約15,000m |
| 兵 装 | ヨウ素化学レーザー(迎撃用) 測距用レーザー 追尾用レーザー |
| 価 格 | 開発費用:7,500億円 |
レーザーでミサイルを撃墜するべく、アメリカでは研究開発が1980年代に始まり、ABL(Airborne Laser:空中発射レーザー)計画もそのひとつでした。このABLシステムをボーイング747に組み込み、管制・制御機能とともに試験運用したのが「YAL-1」です。
「ABL兵器の1号」という意味合いから、この飛行機は「AL-1」とも呼び、実験機を表す「Y」の頭文字がつきました。
ABL自体はヨウ素化学レーザーを使い、YAL-1は貨物機由来の広さを活かして、この高出力レーザー・システムを搭載しました。
先端部分がレーザー(出典:アメリカ空軍)
基本的な迎撃手順としては、まずは赤外線センサーで全周警戒しながら、目標の弾道ミサイルを捜索・捕捉します。その後、測距レーザーで目標との距離を測り、具体的な位置情報を掴み、2基の照射レーザーで目標を追尾する仕組みです。
必要であれば、高性能な光学システムで情報補正を行い、最後は機首(鼻先)から高出力レーザーを連続発射します。このとき、目標のエンジンや燃料タンクを狙い、約3~5秒間の照射で破壊するわけです。
わずか3〜5秒間の出力とはいえ、それは1メガワット以上という、一般家庭の1時間分の消費電力に等しく、ミサイルや航空機の無力化には申し分ありません。
あくまで短距離用
ただし、YAL-1はミサイルが打ち上がる段階、いわゆるブースト段階を狙うため、中間・落下段階での迎撃は想定しておらず、発射地点から300〜500km圏内が限界です。
また、同じ対弾道ミサイルといえども、YAL-1は大陸間弾道弾(ICBM)ではなく、短距離の戦術タイプを想定しており、ICBM相手だとその効果は激減します。
たとえば、レーザー自体は化学燃料で放ち、1回の出撃で最大40発を撃てるものの、これが遠距離から来るICBMになると、発射可能な回数は半減せざるを得ません。
なぜなら、ICBMの方が大型で遠くから迫り、その分だけ照射時間が長くなるからです。逆に短距離型(戦術型)は照射時間が短く済むほか、敵の勢力圏に侵入することなく、そのままレーザーで撃墜できます。
YAL-1(出典:アメリカ空軍)
そもそも、YAL-1は自衛機能を持たず、戦闘機の護衛を受けたり、味方の勢力圏内で活動する前提です。
事前にミサイル発射の兆候をつかみ、迎撃に向けて待機飛行するなか、空中給油で長期任務に対応します。そして、レーザー用の化学燃料を使い切ると、YAL-1は基地に戻って補給せねばなりません。
予算不足で中止に
そんなYAL-1はレーザーの地上試験を行い、50回以上の実験を繰り返したところ、2002年には初飛行を迎えました。
第417試験飛行中隊に籍を置き、2007年には低出力の照射ながらも、空中目標に当てることに成功します。2010年には高出力での迎撃に取り組み、2発の模擬弾を見事撃墜しました。この実証試験により、目標をきちんと捕捉・追尾したうえで、正確に迎撃できると証明しました。
しかし、予算削減の影響を受けて、2010年末には計画の中止が決まり、2012年に最後の飛行を実施したあと、2014年に機体が破棄されました。
1発あたりのコストでいえば、レーザーは迎撃ミサイルより安いとはいえ、大がかりなシステムの維持費は高く、短距離向け(戦術)という制限も加わり、費用対効果は微妙と判断されました。
コンセプト自体は悪くなく、技術の結晶といえる高性能兵器ですが、当時の予算削減の流れを考えると、開発に7,500億円もつぎ込み、その結果が中途半端とされた以上、中止になったのも仕方ありません。
それでも、研究成果と技術は受け継ぎ、新しいレーザー兵器に応用されています。


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