対建造物で効果的
対戦車ロケットといえば、旧ソ連のRPGシリーズが有名のなか、他の国も独自のロケット弾に取り組み、「MATADOR(マタドール)」もその一例です。
これは「Man-portable Anti-Tank, Anti-DOoR」の略称であって、日本語では「携行式対戦車・対構築物」になります。
要するに戦車や建造物を狙い、それを吹き飛ばす歩兵の兵器ですが、その開発元はシンガポール、ドイツ、イスラエルという意外な組み合わせです。
- 基本性能:MATADOR
| 総重量 | 10.35kg |
| 全 長 | 1m |
| 口 径 | 90mm(60mm、110mmタイプも) |
| 要 員 | 1名 |
| 弾 頭 | 粘着弾・成形炸薬弾 |
| 速 度 | 秒速250m |
| 射 程 | 約500m |
| 価 格 | 約80〜90万円 |
MATADORは1999年に開発が始まり、市街戦で使用する前提に基づいて、反動と後方爆炎(バックブラスト)の抑制、システムの軽量化を意識しました。
発射時は後ろにプラスチック片を放ち、全体の反動と爆炎を抑え込み、室内でも使用可能にしました。
使い捨ての弾頭は粘着型(HESH)ですが、先端部分を引っ張ると成形炸薬弾(HEAT)に変わり、前者は主に建造物などに対して、後者は対装甲戦で使う形です。
粘着弾は目標の表面に当たったとき、あえて潰れながら起爆するため、装甲や壁の破片が内側に飛び散り、内部にいる人間を死傷させます。
一方、成形炸薬弾は化学エネルギーを使い、炸薬の形状変化で装甲を貫く仕組みです。しかも、MATADORは遅延モードに設定すれば、装甲や建物の壁を貫通したあと、時間差をつけての起爆でトドメを刺せます。
イスラエルはガザ侵攻で多く投入した結果、コンクリート製の障害物は吹き飛び、無数の建物を崩壊させました。歩兵がひとりで持ち運び、建物に潜んで待ち伏せたり、逆に隠れた敵を建物ごと壊すなど、想定通りの威力を発揮しました。
また、建物の扉やバリケードを撃ち抜き、その侵入経路を確保する場合、MATADORは非常に使い勝手がよく、狭い市街戦には適した便利な火力です。
多数の民間人を巻き込み、ジェノサイドに近い実態とはいえ、MATADORの部分にだけ焦点を当てると、ある意味で本来の役目を果たしました。
戦車相手は厳しい?
MATADORは建物の壁を貫き、装甲車や軽戦車は撃破すれども、現代の主力戦車が相手になると、なかなか「破壊」までは期待できません。
建物の窓から戦車上部を狙うなど、実際は戦車との距離、命中箇所によるとはいえ、ウクライナでの実戦投入と評価をふまえると、戦車相手では損傷にとどまり、撃破するのは厳しいようです。
それでも、主力戦車以外の歩兵戦闘車、兵員輸送車を破壊しており、ウクライナの最前線で活躍してきました。
似た役目の「AT-4」と同じく、お手軽な対車両・対陣地兵器として役立ち、目視圏内・近距離戦では相応の戦果をあげています。
ウクライナ軍での使用
なお、MATADORはロケット弾である以上、ミサイルのような誘導機能を持たず、その命中精度は射手の力量に依存します。されど、弾頭の推進部分は風の影響を受けづらく、そこそこ高い命中率を実現してきました。
それゆえ、10カ国以上で導入されているほか、異なる需要がいくつかの派生型を生み、弾頭を小型の60mm弾、大型の110mmに変更したり、対バリケードに特化したタイプがあります。


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