「はるな型」の発展改良版
海上自衛隊の「顔」といえば、いまでこそ「いずも型」軽空母、あるいはイージス艦が思い浮かぶなか、それ以前は「しらね型」護衛艦でした。
「しらね」「くらま」の就役は1980年に始まり、現在は両方とも退役済みですが、今回はその功績・性能をふり返ります。
- 基本性能:「しらね型」護衛艦
| 排水量 | 5,200t(基準) |
| 全 長 | 159m |
| 全 幅 | 17.5m |
| 乗 員 | 350〜360名 |
| 速 力 | 最大32ノット(時速59km) |
| 航続距離 | 6,000浬(11,100km) |
| 兵 装 | 5インチ速射砲×2 20mm CIWS×2 シースパロー発射機×1 アスロック発射機×1 三連装短魚雷発射管×2 |
| 艦載機 | 哨戒ヘリ×3 |
| 建造費 | 約395億円 |
「しらね型」はヘリコプター護衛艦(DDH)にあたり、海自では「はるな」に続いて2代目のDDHでした。当初はヘリ空母を目指すものの、当時は「時期尚早」との意見が多く、最終的には「はるな型」の発展改良型になりました。
ちなみに、旧海軍の戦艦名に基づき、「こんごう」「きりしま」と命名予定でした。ところが、防衛庁長官の金丸信は政治力が強く、自分の選挙区にある白根山にあやかって、強引に「しらね」と名付けました。
その外見は「はるな型」に似ているとはいえ、レーダーなどの電子機器は新しくなり、通信アンテナ・電子装備の数も増えています。これら新型の電子機器に加えて、情報処理・連携機能の強化を図り、海自ではシステム化の先駆けになりました。
通信・電子装備の増加にともなって、「マック(マスト+煙突)」は1本から2本に変わり、基準排水量は約250トン、全長は約6メートル大きくなりました。
ただ、こうした大型化にもかかわらず、同じ蒸気タービンを推進機関に持ち、最大32ノットを出せました。
全体的な設計を見ると、細かい配置の違いはあれども、「はるな型」の設計を踏襲した結果、後部にヘリ用の格納庫と飛行甲板を置き、兵装の大半を前方に集中させます。
その兵装面では防空能力を高めるべく、護衛艦で初めて「シースパロー」を使い、オランダ製の射撃管制装置を導入しました。当時はミサイル護衛艦、いわゆる「DDG」以外は対空ミサイルを持たず、DDHへの搭載は画期的でした。
いまでこそ「CIWS(20mm)」は標準装備ですが、海自では「くらま」で初めて組み込み、あとで「しらね」にも追加しています。
この防空能力の強化に対して、対艦ミサイルは搭載しておらず、あくまでDDHの役目に専念した形です。
対潜能力の大幅強化
「しらね型」はDDHである以上、特に対潜能力を重視しており、新しい国産の艦首ソナーに加えて、アメリカから曳航式のソナーを買い、新型の対潜情報処理装置を導入しました。
格納庫には3機の哨戒ヘリが収まり、新型機への移行にともなって、磁気探知機とソノブイに対応しました。特にソノブイ対応の影響は大きく、一気に捜索範囲が広がったのみならず、音響探知能力が高まりました。
護衛艦(駆逐艦)の規模で考えると、ヘリ3機の運用能力は極めて珍しく、後継の「ひゅうが型」ヘリ空母が登場するまで、海自最大の搭載数を誇りました。言いかえると、就役時はヘリ空母に匹敵する存在でした。
前述のシステム化・デジタル化と合わせて、対潜戦では部隊指揮能力に期待が集まり、艦隊旗艦としての役目を果たします。
ただし、いくら3機を収容できるとはいえ、後部甲板で同時に発艦・着艦はできず、現代のDDH(ヘリ空母だが)に比べると、航空運用能力は限られていました。
近代化改修と退役
そんな「しらね型」は長らく海自の顔を担い、「しらね」は第1護衛隊群の旗艦を務めたほか、観艦式では10回も観閲艦になりました。「くらま」の方も負けておらず、第2護衛隊群の旗艦になったうえ、観艦式の観閲艦を4回は務めました。
途中でシースパローは改良型に変わり、ヘリをSH-60シリーズに更新するなど、近代化改修を受けており、現代戦の進化に対応しようとしました。
しかし、「しらね」は2007年に火災事故が起き、中枢の戦闘指揮所(CIC)が全滅します。死傷者はいなかったとはいえ、CICの全滅で修理費は300億円と見積もり、一時は退役が検討されました。
結局、より古い「はるな」を退役に追い込み、そのCICを「しらね」に移植しながら、50億円に修理費用を抑えました。
ところが、今度は2009年に「くらま」が関門海峡にて、貨物船に衝突されてしまい、その艦首部分が大破・炎上しました。こちらは約10億円で修理に取り組み、2010年に現場に復帰しています。
なにかと不運が連続したものの、復帰後の「しらね」「くらま」は前線での活動を続き、「いずも型」護衛艦の登場にともなって、それぞれ2015年と2017年に退役しました。
ここでフィリピンから購入希望が上がり、第2の人生を送る可能性が出ますが、最終的に立ち消えます。船体は老朽化していたとはいえ、対中国におけるフィリピンの強化、「あさぎり型」の輸出の件を考えると、「しらね型」を売却してもよかったです。
「しらね」は退役後に若狭湾に移り、新型対艦ミサイルの「XASM-3」を試すべく、標的艦の役目を与えられました。ここで数回の試験を実施したあと、解体処分を受けました。
一方、「くらま」潜水艦の標的艦になり、18式魚雷の雷撃を受けながら、2018年に若狭湾で沈没しました。
両艦合わせて地球約80周分を走り、DDHの能力を証明するがごとく、ヘリの着艦回数は10万回にのぼりました。まさに日本の海を守り、海自に尽くした勲章艦でした。
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