陸軍向けの次期輸送機
ティルト・ローター機といえば、ヘリと飛行機を融合させた結果、固定翼機のように速く飛び、ヘリのように垂直離着陸できます。まさに「いいとこ取り」の機体ですが、その代表例は自衛隊も使う「V-22・オスプレイ」でしょう。
しかし、アメリカはオスプレイにとどまらず、陸軍用に別の機体を採用しました。
それが老舗大手・ベル社の「V-280」ですが、名前の由来は時速280ノット(約520km)で飛ぶから。ただし、米陸軍では「MV-75」に変わり、「シャイアンII」と命名しました。
- 基本性能:MV-75
| 重 量 | 8.2t |
| 全 長 | 15.4m |
| 全 幅 | 24.9m |
| 全 高 | 7m |
| 乗 員 | 4名 |
| 速 度 | 時速520km |
| 航続距離 | 最大3,900km |
| 高 度 | 約6,000m |
| 輸送能力 | 兵員14名 |
| 価 格 | 1機あたり約70億円 |
米陸軍では次の主力輸送ヘリを選ぶべく、いくつかの候補を検討していたところ、2022年に「V-280・バロー」に決まり、「MV-75・シャイアンII」と名前を変えたあと、現在は試験運用を重ねています。
これは「UH-60・ブラックホーク」の後継にあたり、米軍ではオスプレイに続くティルト・ローター機ですが、従来の輸送ヘリの2倍の速度を誇り、航続距離は約3,900kmに広がりました。その結果、より遠くまですばやく展開したり、想定外の方向から侵入できるなど、戦術的優位性をもたらします。
特に島嶼部での戦闘になれば、洋上を迅速に移動しながら、島々に機動展開せねばならず、オスプレイとともにMV-75の機動性、航続距離が期待されています。
負傷者の医療後送においても、速さが「命を救う差」になるため、一刻を争う場面ではMV-75の高速力が適任です。さらに、特殊部隊の作戦を支援する場合、レーダーの捕捉前に現場を離れるなど、作戦の成功率と生存性向上につながります。
ヘリはたとえ滑走路がなくとも、あらゆる場所に降りられるものの、速度と航続距離では固定翼機には勝てません。作戦地域が基地から遠い場合、途中で燃料補給が必要になり、時間的ロスや行動の制約が生まれます。
MV-75の高速・長距離能力を使えば、このような作戦上の制約を打ち破り、一気に目標地点まで進んだあと、すばやく離脱できるようになったわけです。
オスプレイとの違い
ここまで述べた利点はMV-75に限らず、オスプレイにも共通する話とはいえ、両者は何が違うのでしょうか?
MV-75の方がひと回り小さいものの、どちらも同様の輸送力と任務を持ち、一見すると重複した存在です。
しかし、MV-75はオスプレイの発展型にあたり、弱点を克服するために設計されました。
最大の違いはローターの傾け方であって、オスプレイはエンジンごとローターを傾けます。つまり、エンジンとローターが一体となって動き、構造の複雑化と整備性の悪化、重量の増加につながりました。
他方、MV-75はオスプレイとは違い、エンジン部分は固定化されており、ローターだけが傾く仕組みです。それゆえ、比較的シンプルな構造になり、整備性が良くなったほか、複合素材の使用箇所を増やすことで、軽量化とコスト削減を実現しました。
また、操縦性についても改善されており、パイロットの負担が軽減されるなど、より安全で扱いやすい設計になっています。
海兵隊・空軍の特殊部隊がオスプレイを使い、すでに実用化されて時間が経つなか、実際の運用で改善点を洗い出したあと、それらを反映したのがMV-75といえるでしょう。
米陸軍で正式採用されるも、飛行試験で評価している最中のため、まだ量産体制には入っておらず、部隊配備は2030年代になる見込みです。ちなみに、最初の配備先は第101空挺師団に決まり、最初から空挺部隊の機動作戦を支えます。
一方、陸上自衛隊は17機のオスプレイを運用中ですが、そこまで欲しかったわけではなく、その後は「CH-47輸送ヘリ」を追加調達するほど。したがって、世界的にティルト・ローターの時代になり、オスプレイの運用で魅力を感じない限り、自衛隊がMV-75を導入する可能性は低いです。
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