無人砲塔の装輪自走砲
ロシア=ウクライナ戦争での砲兵戦を受けて、世界的に自走榴弾砲の価値が再認識されるなか、丈夫さと信頼性に長けたドイツ製の「PzH2000」が特に評判を集めました。
そのPzH2000の系譜を引き継いでいるのが、同じくドイツが開発した「RCH」155mm自走砲です。
- 基本性能:RCH 155mm自走榴弾砲
重 量 | 39t |
全 長 | 10.4m |
全 幅 | 3m |
全 高 | 3.6m |
乗 員 | 2名 |
速 度 | 時速100km(路上) |
行動距離 | 約700km(整地) |
兵 装 | 52口径155mm榴弾砲×1 |
射 程 | 40〜54km |
射 角 | -2.5〜65度 |
射撃速度 | 毎分9発 |
価 格 | 1両あたり約20億円 |
RCH155は2022年に生産が始まった新しい火砲であり、キャタピラ式のPzH2000とは異なり、8輪駆動のタイヤ式自走砲になります。
タイヤ式は未舗装の土地には不向きとはいえ、路上では最高時速100kmまで出せるため、道路網が発達していれば、より機動展開しやすいのが利点です。現代砲兵戦においては、敵に位置をつかまれる前に移動せねばならず、タイヤ式の方が何かと便利なケースが多いでしょう。
しかし、RCH155が持つ最大の特徴は、その砲塔を無人化させた点です。つまり、長さ8mもの155mm砲を操る砲塔内には人がおらず、乗員は車両と操縦手の2名体制になりました。
捕捉から照準、装填にいたるまでのあらゆるプロセスが自動化されており、射撃と次の目標捜索を同時に行うことすら可能です。さらに、この自走砲は世界で初めて移動しながら射撃する能力を手に入れたところ、敵に捉えられるリスクが大きく下がりました。
このように自動化・省人化を推し進めたわけですが、そもそも名前の「RCH」も英語のRemote Controlled Howitzer (遠隔操作式の榴弾砲)を略したものです。
PzH2000を超える性能
では、ここまで自動化させて射撃性能は大丈夫なのか?
じつは問題ないどころか、性能的にはPzH2000を凌駕するとされています。
まず、弾薬については最大30発を収容できるほか、全てのNATO弾と新しい推進砲弾にも対応しました。そのため、射程距離はガス噴射で空気抵抗を減らす「ベースブリード弾」であれば40km、「M982エクスカリバー弾」を使えば50km以上まで伸ばせます。
そして、自動化によって毎分9発という驚異的な射撃速度を誇り、ひとつの目標に複数発を同時弾着させることも可能です。前述の走行しながらの射撃能力と合わせれば、敵にとっては長距離攻撃してくるにもかかわらず、こちらからはなかなか捉えられません。
もちろん、こうした機動性を高めるべく、強力なディーゼルエンジンと頑丈な脚回りを持ち、幅2mの溝を乗り越えたり、60度もの登坂能力を発揮します(普通自動車は32度あたりが限界)。
360度の射撃範囲を持ち、後ろにも撃てる(出典:ドイツ軍)
機動力優先で捕捉されない前提とはいえ、防御力はおろそかにしておらず、14.5mmまでの機関銃弾や砲弾の破片から守れるだけの装甲は確保しました。また、車体は対戦車地雷を考慮した設計になり、煙幕展開器やNBC兵器に対する防護力も与えられました。
こうしてみると、RCH155はPzH2000をタイヤ式にしたうえで、自動化・省人化を通してさらなる性能向上を果たした自走砲といえます。実際のところ、その砲と弾薬はPzH2000と互換性があって、すでにPzH2000を運用している国がそのまま移行しやすいのも事実です。
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