新型の攻撃偵察機
偵察が主任務にもかかわらず、攻撃ヘリに近い火力を持ち、いざという時は戦う存在として、攻撃偵察機という種類があります。
自衛隊の「OH-1(ニンジャ)」も該当するなか、アメリカでは引退したOH-58のあとを継ぐべく、「ベル360・インビクタス」を検討していました。これはヘリの大手老舗・ベル社がつくり、2019年に初めて公表された構想ですが、その名前は英語で「不屈(Invictus)」を意味します。
2014年にOH-58が退役したあと、アメリカでは無人偵察機とともに、AH-64アパッチを偵察攻撃に使い、事実上の代替機になりました。
しかし、専用の偵察攻撃機も諦めておらず、2018年には「将来型攻撃偵察機」の計画が始まり、ベル社とシコルスキー社が競います。
その結果、前者はベル360に取り組み、後者は「レイダーX」を候補にあげました。
ベル360のイメージ図(出典:ベル社)
ベル360は最高時速330kmを誇りながら、操縦系統は電気信号式(フライ・バイ・ワイヤ)に変わり、操縦時の柔軟性を高めました。ローター・ブレードは4枚あるものの、狭い市街地での飛行を考えて、直径は12m以内に抑えました。
武装面では20mm機関砲、内蔵型の複合ランチャーを備えており、対地ミサイルとロケット弾を搭載できます。さらに、補給・整備体制のデジタル化を行い、メンテナンス時間・費用の削減、効率化による稼働率の向上を目指しました。
以上のとおり、偵察攻撃機としては申し分なく、無人機とAH-64攻撃ヘリの中間的存在でした。
存在意義の低下と中止
2022年には試作機が完成状態になり、ライバルのレイダーXに打ち勝つべく、陸軍で評価試験を受ける予定でした。
ところが、同年にロシア=ウクライナ戦争が始まると、ベル360を巡る状況が一変します。ウクライナではドローンの活躍に加えて、攻撃ヘリなどの損害も相次ぎ、特に携行式防空ミサイルの脅威が再認識されました。
歩兵ですら対空ミサイルを持ち、状況次第で航空機を撃ち落とせるなか、ドローンが偵察から対人・対車両攻撃を行い、戦場におけるヘリの役割を侵食しました。
いまや偵察はドローンで済み、有人機のほぼ出番はなくなりました。まだ対地攻撃には使えるとはいえ、こちらも自爆ドローンの活躍がすさまじく、肩身が狭くなったのは否めません。
防空兵器の普及、ドローンによる代替をふまえると、従来ほどの活躍は期待できず、攻撃ヘリの存在意義が問われるなか、偵察攻撃機はなおさら立場が危ういです。
少なくとも、あえて偵察攻撃機を使う理由はなく、2024年に米陸軍は計画を中止したため、ベル360は幻の機体として終わりました。この結末はステルス攻撃ヘリの「コマンチ」と似ており、ヘリのが将来性を疑問視されている証です。


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