玉突き方式の軍事支援
ロシア=ウクライナ戦争の終わりが見えないなか、日本政府はミサイル防衛を担っているPAC-3ミサイルの輸出解禁を決めました。日本国内では三菱重工業が空自向けにPAC-3ミサイルをライセンス生産していますが、今回の決定ではこれを本家・アメリカに輸出するものです。
なぜ、そんなことをするのか?
それはウクライナを間接的に支援するためです。
武器輸出三原則を長年維持してきた日本では、装備品の輸出は基本的に禁じられていました。しかし、2014年に制定された防衛装備移転三原則では、厳しい審査や管理こそ求められるものの、輸出自体は解禁されました。
しかしながら、紛争当事国は対象外となり、殺傷能力のある装備品はその用途が5つの類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)のどれかに該当せねばなりません。
つまり、殺傷能力を持ち、5つの類型にも当てはまらないPAC-3ミサイルは、日本から紛争当事国のウクライナには直接は輸出できません。
そこで、登場するのが第三国のアメリカ経由で渡すという手段です。
この方法では日本はウクライナに直接提供はしないものの、アメリカに渡して不足分を穴埋めすることで、アメリカは自身の在庫から同じ分だけをウクライナに供与できます。
いわゆる「玉突き方式」「ところてん方式」というもので、建前としては直接供与には当たらず、ロシアや反対世論に対して一応の言い逃れができる形です。
なにやらパチンコ店の三点方式に似た手法ですが、自由主義陣営としてウクライナ支援に加わりたい反面、ロシアとの関係を必要以上に悪化させたくない場合などは、よく用いられる手段であり、すでに韓国も行ってきました(そうは言いつつ、ロシアは当然反発しますが)。
差し出す余裕はあるのか
ところで、貴重なPAC-3ミサイルを差し出して日本の防衛に支障はないのでしょうか。
じつは2022年に決められた防衛費増額では、PAC-3が必要量の6割しか確保できておらず、不足している実態が明らかにされました。PAC-3に限らず、自衛隊の弾薬備蓄量は慢性的に不足気味で、本来ならば供与する「余裕」はありません。
「足りないから予算増額します」と説明したにもかかわらず、わざわざアメリカに輸出するのは整合性がつきませんが、これも堂々とウクライナに軍事支援できないからです。
ただし、ミサイルも年数が経ったものは何らかの形で消費するか、解体処分するしかなく、最近の弾薬備蓄量の拡大と長距離ミサイルの導入を受けて、従来の保管スペースでは足りないかもしれません。
そうなると、選択肢は弾薬庫を増設するか、思い切って演習などで使い切るか、最終的に捨てるかの3つになります。しかし、弾薬庫は管理基準や関連規則が極めて厳格なので、あちこちにそう簡単には作れません。そして、演習で使うにも予算や部隊の調整・割当てが難しく、そもそも実弾射撃できる場所も限られています。
結局のところ、どう頑張っても処分見込みの品が出る可能性が高く、捨てるぐらいならば、第三国経由でも切望している国にあげた方が外交的にも、費用的にも好ましいと思われます。
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