F-35B搭載の英空母
イギリス海軍は長らく海を支配したものの、第二次世界大戦以降はその座をアメリカ海軍に譲り、いまや全盛期の見る影もありません。
それでも、世界有数の外洋海軍であるのは変わらず、2隻の「クイーン・エリザベス級」空母を運用しています。
ちなみに、その艦名は16世紀のエリザベス1世が由来であって、2022年に崩御されたエリザベス2世陛下ではありません。
- 基本性能:「クイーン・エリザベス級」空母
排水量 | 45,000t(満載時:67,669t) |
全 長 | 284m |
全 幅 | 73m |
速 力 | 26ノット(時速48km) |
乗 員 | 1,600名 |
航続距離 | 18,520km |
兵 装 | 20mm CIWS×3 30mm機銃×4 |
搭載機 | F-35B戦闘機×36、各種ヘリ×10 |
建造費 | 1隻あたり約4,650億円 |
同型艦 | プリンス・オブ・ウェールズ |
「クイーン・エリザベス級」イギリス史上で最大の軍艦になり、哨戒ヘリ・早期警戒ヘリとともに、F-35B戦闘機を35機近く搭載できます。
約40機ほどの戦闘航空団を運用するなか、F-35Bは短距離離陸・垂直着陸が可能なため、カタパルトは装備しておらず、スキージャンプ台で発進させる仕組みです。
アメリカの原子力空母と比べると、出撃時の燃料・兵器搭載量は少ないですが、F-35Bの高い能力により、相当な打撃力を持っています。
6つある発着スポットのうち、1つはヘリ専用とはいえ、複数の戦闘機を同時運用できることから、訓練では15分間で最大24機を発進させました。
これはNo.1のアメリカ海軍を除けば、世界屈指の航空運用能力を誇り、フランスの空母「シャルル・ド・ゴール」とともに、欧州随一の戦力投射能力です。
インド太平洋への派遣
「クイーン・エリザベス級」は通常動力型空母としては申し分なく、イギリスのプレゼンスを示すなど、外交的な役割も果たしてきました。
空母は力の象徴でもある以上、その派遣は運用国の関与を分かりやすく表す行為で、2021年のアジア遠征は中国に対するメッセージでした。一方、2025年の派遣は対中国に加えて、ロシアの「裏側」に空母艦隊を送り込み、対ロシアの意味合いが強いです。
イギリス海軍は予算削減に苦しみ、虎の子の空母をアジアまで送るのは簡単ではなく、ローテーション的にはキツかったでしょう。
そこまで無理をしながらも、中国を含むインド太平洋諸国に対して、「イギリスのアジア回帰」を示しました。
これは1960年にスエズ運河より東から退き、覇権国家の地位を捨てたとき以来の出来事です。言いかえると、スエズ以東の撤退を見直して、今度は対中国の思惑も重なり、再びアジアに戻ってきました。
一応、イギリスは太平洋にも領土を持ち、EU離脱後は「CPTPP(経済協定)」に加盟するなど、どんどんインド太平洋に深入りしています。ヨーロッパの国にもかかわらず、アジア方面にそれなりの利害を持ち、この点でも空母派遣が役立つ形です。
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