対戦車から対艦まで
戦車は地上戦で強いものの、上空からの攻撃には弱く、この弱点を航空機に狙われてきました。
特に攻撃ヘリが天敵にあたり、対戦車ミサイルで狙い撃ちされると、あまり対抗手段がありません。攻撃ヘリが使うミサイルのうち、アメリカの「ヘルファイア」は代表的な存在です。
- 基本性能:AGM-114R「ヘルファイア II」(最新型)
全 長 | 1.8m |
直 径 | 17.8cm |
重 量 | 49kg |
速 度 | マッハ1.3 (時速1,580km) |
射 程 | 11km |
価 格 | 1発あたり約2,000万円 |
ヘルファイアは空対地ミサイルとはいえ、実際は艦船から建物・陣地にいたるまで、あらゆる目標に使われてきました。
その名前(Hellfire)の由来ですが、本来は「HELicopter Launched FIRE-and-forget)」の略称であって、日本語では「ヘリからの撃ちっ放し」という意味です。
しかし、ヘルファイアは「地獄の業火」にもなり、いつしかこの意味が主流になりました。
そんなヘルファイアは1985年に配備が始まり、いくつかの改良型が登場したものの、ほとんどがレーザーを目標に当てながら、そのまま追尾させる方式です。
このとき、煙幕による誘導妨害を防ぐべく、優れた飛翔速度で反応時間を与えず、高い命中率を叩き出してきました。戦車上部に命中すれば、少なくとも戦闘不能に追い込み、他の車両や建造物になると、わりと容易に破壊できます。
また、北欧諸国は沿岸防衛に対艦型を使い、哨戒艦やコルベットを撃破できるそうです。ただし、このタイプは射程が短く、敵の防空能力によっては厳しいでしょう。
攻撃ヘリだけではなく、いろんなプラットホームで使える柔軟性を誇り、MQ-9リーパーのような無人攻撃機、哨戒ヘリでも運用されてきました。
構想的には失敗したとはいえ、沿海域戦闘艦(LCS)は任務次第で装備が変わり、対地攻撃にはヘリファイアを採用しました。
開発の歴史をさかのぼると、冷戦期のソ連戦車を念頭におきながら、結局は湾岸戦争と対テロ戦で役立ち、戦車以外の目標を多数撃破してきました。その重要性は変わらず、後継の「JAGM」が量産されない限り、今後も使われつづけるでしょう。
暗殺用の「忍者ミサイル」
戦車以外の目標にも使える以上、小型・高精度の長所を活かしながら、重要人物の暗殺にも使用されてきました。
たとえば、アメリカは対テロ戦争において、2022年に「アルカイダ」の指導者を殺害しましたが、このとき2発のヘルファイアで仕留めました。ほかにも、ソマリアの過激派組織「アル・シャバブ」のリーダー、あのイスラム国の処刑人「ジハディ・ジョン」も爆殺しています。
テロリストの暗殺にも使うとはいえ、ピンポイント攻撃の失敗は少なくなく、無関係の民間人を巻き添えにしています。そのため、世論と国際社会の批判を浴び、民間人の犠牲を回避するべく、対人攻撃型の「ヘルファイアR9X」を開発しました。
これはあえて爆薬を搭載せず、弾頭内蔵型の6枚刃(ブレード)を展開しながら、標的を狙い撃ちする仕組みです。
爆薬を使わないミサイルは珍しく、その特殊構造と暗殺専用という特徴から、「ニンジャ・ミサイル」として知られています。
ヘルファイアは柔軟性に長けており、アメリカが好んで使う兵器ですが、日本もアパッチ攻撃ヘリ、SH-60K哨戒ヘリ向けに導入しました。
ところが、自衛隊のアパッチは13機しかなく、哨戒ヘリで対艦攻撃する可能性は低いです。あるとすれば、浮上した潜水艦や不審船に対してぐらいで、それゆえヘルファイアの保有数は少なく、現状ではあまり出番がありません。
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