呪われた空母?ロシアの「アドミラル・クズネツォフ」とは

外国
この記事は約4分で読めます。

ロシア唯一の空母

「航空母艦(空母)」は戦力投射に役立ち、大国の具現化したような兵器です。

それゆえ、財政的負担が大きいにもかかわらず、多少の無理をしてでも持ちたがり、ロシアの空母「アドミラル・クズネツォフ」もそのひとつといえます。

これはロシア唯一の空母であって、経済不況下でも維持してきたものの、あまりに不幸なトラブルが続き、いまや「呪われた空母」の異名を獲得しました。

  • 基本性能:空母「アドミラル・クズネツォフ」
排水量 53,000t(基準)
全 長 305m
全 幅 38m
乗 員 1,690名+航空要員626名
速 力 29ノット(時速54km)
航続距離 約15,700 km
兵 装 30mm CIWS×6
複合型CIWS×8
対潜ロケット砲×2
垂直発射装置(VLS)×204
対艦ミサイル用×12
対空ミサイル用×192
艦載機 戦闘機24機、ヘリ6機など
建造費 不明

「アドミラル・クズネツォフ」は現在のウクライナで建造されたあと、1990年の就役から1年後にソ連が崩壊するなど、いきなり最悪のスタートを切ります。

このような混乱のなか、ロシアとウクライナが所有権を巡って争い、最終的には新生・ロシア海軍の北方艦隊に配備されました。

ちなみに、正式名称は「アドミラール・フロータ・サヴィエーツカヴァ・サユーザ・クズニェツォーフ(ソビエト連邦海軍元帥・クズネツォフ)」という、世界で最も長ったらしい艦名です。

そんな空母クズネツォフは紆余曲折により、原子力機関とカタパルト装備をあきらめながら、スキー・ジャンプ方式を採用しました。これはスキー・ジャンプ台で艦載機の発艦を行い、帰りはアレスティング・ギアで着艦させる仕組みです。

主力艦載機には「Su-33戦闘機」を積み、早期警戒・対潜哨戒用のヘリとともに、ひとつの航空部隊を形成します。最大搭載数は約30〜35機の戦闘機、20機前後のヘリとされるも、もっと少ない数で運用してきました。

長らくまともな訓練ができず、いろんな不具合が起きている状況を考えると、その航空運用能力は限られてしまい、実際の適性戦力は戦闘機×20〜25機、ヘリ×10機前後と思われます。

なお、Su-33は老朽化が進み、まもなく退役する予定です。次期艦載機のメドは立っておらず、比較的古いMiG-29Kに頼るしかありません。

重武装・高い戦闘力を誇る

航空運用能力ではアメリカに敵わないとはいえ、「クズネツォフ」はソ連空母にありがちな重武装の特徴を持ち、空母単体としての戦闘力は高いです。

たとえば、30mm CIWSだけでも6つあるほか、独特の複合型CIWS(コールチク)を8つも積み、多数のバルカン砲とミサイルを組み合わせました。

対艦ミサイル・対空ミサイル向けのVLSも備えており、後者は192セルも搭載するなど、濃密な防空網を築き上げました。一方、対艦ミサイルは約600kmの長射程を誇り、ロシア独自の人工衛星と連動しながら、遠方の目標をとらえられます。

これら各種兵器を支えるべく、固定式のフェーズド・アレイ・レーダーを使い、約80個もの目標を同時追尾できるそうです。

なぜ対艦ミサイルまで載せたかといえば、Su-33戦闘機の兵器搭載量が限られており、空母自身で補完しようと考えたからです。スキー・ジャンプ方式を使う以上、カタパルト式と比べて重量制限がともない、艦載機には多くの兵器を積めません。

さらに、アメリカの原子力空母とは違って、ロシア空母の役目は自国の潜水艦基地を守り、敵の空母艦隊を寄せつけないことです。

ロシアの核戦略上、原子力潜水艦は死守せねばならず、北極海周辺の基地は最重要エリアといえます。同空母は対地攻撃も行うとはいえ、沿岸防衛の意味合いの方が強く、それが水上打撃能力につがりました。

このような事情により、単艦で高い戦闘力を確保した結果、「クズネツォフ」は純粋な空母ではなく、重航空巡洋艦に分類される場合があります。本来の空母が単独での戦闘力が弱く、常に護衛艦艇を必要とするなか、ロシア空母はそれをくつがえしました。

コメント