準同盟化は自然な成り行き
さて、アメリカに視点を移すと、アジア太平洋の国際秩序を維持しているのは日本、韓国、オーストラリア、フィリピンなどとの二国間同盟です。
これはNATOによる集団防衛を確立したヨーロッパと違って、アメリカに各国がそれぞれひもづいていることから「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれます(自転車の車輪のイメージ)。
二国間同盟によるハブ・アンド・スポーク
アメリカの力が圧倒的だったときは、これら二国間同盟のシステムで特に問題なかったのですが、中国が急成長した現在はアップデートせねばなりません。
アメリカの本音としては、これら二国間同盟を相互に結びつけて強化したく、実際に日米同盟を基軸とした「日米韓」「日米豪」のような枠組み、いわゆる「日米同盟+α」に取り組んでいます。
したがって、日米豪協力が定着して日豪両国が準同盟化したように、日米韓協力を通して日韓も準同盟関係にまで発展するのが望ましく、ある意味で自然な流れといえます。
ただし、国民感情を考えれば、もし準同盟化しても日豪のように互いに部隊を展開させるのは厳しく、周辺海域・空域での連携強化にとどまるでしょう。
訓練目的であっても、自衛隊が朝鮮半島に展開するとなれば、韓国国民が激しい拒絶反応を示すに違いありません(逆もしかり)。
このあたりは理屈ではなく、複雑な相互感情に起因するため、根本的解決のメドは立ちません。
また、レーダー照射問題で途絶えた軍事交流も再開しましたが、これもかなり初歩的なレベルに立ち戻りました。韓国側が自衛隊機にロックオンするような愚行を防ぐべく、両国は「海上衝突回避規範(CUES)」をふまえた合意をしています。
このCUESはもともと米ソ両国が衝突防止用に作ったのが始まりで、いわば仮想敵国や信頼醸成が進んでいない国と交わす最低限のルールのようなもの。
少なくとも、西側陣営では「常識」として認識されているものばかりなので、日韓の軍事協力はそのレベルから仕切り直しとなりました。
こうした諸事情を考えれば、今後の日韓両国はアメリカを介しながら安全保障関係を深めるものの、日豪ほどの密接ぶりは期待できず、かなり物足りない準同盟になると思われます。
それはアメリカという仲介者がいるときだけの「条件付き準同盟」といえるかもしれません。
文書化・定例化の試み
このように「日米同盟+α」のなかに韓国が入るのは自然な成り行きですが、問題は関係強化に一直線のオーストラリアとは異なり、韓国は政権交代や国内事情でいつも姿勢がブレることです。
ただし、現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、異次元レベルの現実路線を進めており、その対日政策は評価されるべきです。
ユン政権は戦後最悪となった日韓関係の急速改善に取り組み、国内の激しい反発を受ける歴史問題で妥協してでも、日本との安全保障協力を優先しました。
そして、2023年8月の日米韓首脳会談では、実務者から首脳レベルにいたるまでの定例会談、共同演習の定例化、北朝鮮のミサイル情報の即時共有などで合意しました。
これはずっと目指してきたり、試みてきたことを正式に「文書化」したものです。
その後、具体的な協力の調整と管理を行うべく、2024年には各国に連絡事務局を置き、連携体制を「制度化」することにしました。
こうして、定例化・制度化により、後戻りできないようにしたわけです。
歴史的な日米韓首脳会談(出典:首相官邸)
もちろん、韓国側の対外政策がこのまま続くとは限らず、以前も慰安婦問題や軍事情報保護協定(GSOMIA)で合意をひっくり返しました。
このような「前科」をふまえると、今後も政権次第では油断できず、岸田・バイデン・ユン政権ほどの安定性は期待できないでしょう。
それでも、国際的な公式合意を破り、アメリカの面子をつぶす点では、一定の抑止力はあります。
いずれにせよ、日韓関係を安定させる制度的基盤ができたわけですが、それはもはや過去問題で争う余裕がないほど、情勢が切迫している裏返しでしょう。
ヨーロッパでは「ロシアの脅威はポーランドがドイツの軍事力強化を要請するほど」といわれています。アジアでは「中国・北朝鮮の脅威は韓国が歴史問題よりも日本との関係強化を優先するほど」となりそうですね。
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