保守的な価値観
同盟国を雑に扱うなか、トランプの対外関係には「例外」があって、その代表例がイスラエルとロシアです。
ロビー活動の成果なのか、あるいはユダヤ系の娘婿の影響なのか、トランプはイスラエル批判をほとんどせず、変わらぬ支援をしてきました。同じ軍事支援でも、ウクライナとイスラエルでは対照的に扱い、後者には文句さえ言っていません。
「親イスラエル」はトランプに限らず、アメリカあるあるとはいえ、それだけロビイストの影響力が強く、トランプ陣営にも入り込んでいる証です。
一方、ロシアのプーチン大統領にはやたら甘く、何かしら弱みを握られている、向こうのスパイとまで批判されています。
しかし、このあたりは個人都合というよりは、保守的な価値観が共鳴した結果でしょう。トランプ主義は伝統的な保守層に根強く、キリスト教の保守思想に合いました。
彼らは急進的なリベラル思想を憎み、不法移民やLGBT運動に嫌悪感を示します。トランプも古きよきアメリカを懐かしみ、古典的な価値観を守るべく、リベラル左派とは対決してきました。
この見方にふまえると、アメリカ国内は言うにおよばず、他国の左派勢力も思想を押しつける限り、文字どおりの「敵」に該当します。
逆にロシアなどは保守的な価値観を守り、リベラル思想をまき散らさないため、一部の同盟国より害が少なく見えます。
むしろ、彼らとは思想面で相性がよく、プーチンの反移民・反LGBT政策に共鳴しやすいです。この傾向はトランプ自身も変わらず、リベラルな考えのマクロンではなく、保守的なプーチンに親近感を抱き、それが態度に現れてきました。
尊敬されたい気持ち
数々の発言から察するに、トランプは尊敬されたい気持ちが強く、彼を突き動かしてきました。トランプは自信家の成功者ですが、「強い指導者」というイメージを好み、それが自尊心を満たしているのでしょう。
それゆえ、同じく強い相手からの敬意にこだわり、プーチンや金正恩、習近平などがいい例です。彼らは強いにもかかわらず、自分を信頼して敬い、恐れているとなれば、最高レベルの自己満足を達成できます。
それは外交にとどまらず、側近たちが毎回のように讃えたり、感謝するケースが目立ち、明らかに「ヨイショ」しています。そういう意味では、トランプは極めて人間くさく、分かりやすい人でもあるのです。
そもそもオバマのせい?
なお、破天荒な言葉とは違って、トランプ自身は軍事力行使を好まず、死活的利益を守るときのみ、しぶしぶ介入する傾向があります。いつも自分の在任中は戦争が起きておらず、経済制裁と関税で圧力をかければ、何でも解決できると強調しており、本人はノーベル平和賞を狙っているそうです。
平和賞への想いは意外に強く、ロシア=ウクライナ戦争の終結を急いだり、ガザ侵攻の解決を焦る背景にも、この執着心が関わっています。
では、なぜノーベル平和賞がほしいのか?
大きな理由のひとつとして、オバマ元大統領への対抗心があげられます。あまり知られていませんが、トランプが大統領選に出馬したのは、オバマの「イジリ」が原因と言われてきました。
2011年のホワイトハウス主催の晩餐会において、オバマがトランプをみんなの前でイジリ、恥をかかせたとされています。この晩餐会はトランプに限らず、辛辣な冗談を言いながら、みんなでイジり合う(英語で「Roast」)伝統行事ですが、トランプはものすごく腹が立ったそうです。
当時の映像を見ると、一応は苦笑いを浮かべているものの、ほとんど目は笑っておらず、内心は怒っているのが分かります。このときの屈辱を忘れず、あのオバマを見返すべく、大統領選に出馬したわけですが、いまでも根に持っているようです。
晩餐会での2人の様子
現在もバイデン政権を批判しながらも、何かとオバマ政権と比べることが多く、心のどこかで意識しているのがうかがえます。
そのオバマは2008年に「核なき世界」を主張したところ、ノーベル平和賞を受賞しました(具体的な実績はないが)。自尊心と我の強い性格を考えると、因縁の相手が受賞した事実は重く、個人的な想いが与える影響は小さくありません。

コメント