ドローン攻撃に弱い?浮き彫りになった基地警備の重要性

FPVドローン 自衛隊
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衝撃的な基地の奇襲

以前、航空基地などを襲撃部隊から守り、その機能を維持する「基地警備隊」を取り上げました。しかし、これは対人戦闘に主眼を置き、その装備は不十分と説明しました。

とりわけ対ドローンの懸念が強まるなか、2025年6月にロシアで大事件が起きます。

ロシアの大型爆撃機を破壊すべく、ウクライナの特務機関が工作員を送り込み、各地の空軍基地を同時多発的に襲撃しました。4カ所以上の基地が被害に遭い、最も遠い箇所はウクライナから4,300kmも離れています。

この「Operation Web(クモ作戦)」は約1年半の準備の末、基地の近くで計117機の自爆ドローンを放ち、駐機中の航空機を次々と炎上させました。

ウクライナ側の発表によると、計41機の爆撃機を撃破したそうですが、もし事実ならば、ロシアは1日で戦略爆撃機の34%を失い、約1兆円の損害を被ったことになります。

ただし、この数字は誇張が入っているうえ、「撃破=破壊」というわけではなく、実際の喪失機数は15機前後と思われます。各地の映像と衛星画像を見る限り、少なくとも十数機が燃え上がり、損傷機も簡単には修復・戦列復帰できません。

炎上するロシアの爆撃機 炎上するロシアの爆撃機

損害を巡る議論はあれども、ロシア空軍の大失態なのは変わらず、その長距離攻撃能力は落ち込み、核戦力の一翼さえ揺らぎました。

たとえば、大型爆撃機のツポレフ95は核戦力の柱を担い、その保有数は50〜60機とされていました。ここに稼働率を加味すると、実際の運用数は30機前後まで落ち、そのうち10機を失うだけで大打撃です。

もっと痛いのが、A-50早期警戒管制機の喪失であって、ウクライナが続々とF-16戦闘機をそろえるなか、ロシア側の警戒能力は大きく後退しました。

逆に撃破した爆撃機の分だけ、ウクライナの防空体制に余裕ができ、貴重な地対空ミサイルを温存できます。しかも、100機の安いドローンと引き換えに、高価な大型爆撃機を十数機も撃破するという、軍事史に残る大金星を挙げました。

巧妙すぎるやり方

そのやり口はとても巧妙で、まずはロシア国内に運送会社をつくり、普通に営業して信用を勝ち取りました。その裏でドローンなどを密輸して、現地で着々と準備を進めました。

時が満ちたあと、荷物コンテナの屋根部分にドローンを仕込み、いつものトラックを装いながら、基地付近まで問題なく近づきました。その後、遠隔操作で一斉起動させて、大規模な奇襲攻撃を仕掛けたわけです。

以前から長距離ドローンは飛来していたものの、まさかの潜入破壊工作が同時多発的に起き、ロシア側は完全に不意を突かれました。一応、数年前も似た事件はありましたが、今回は比べものにならない大規模攻撃でした。

もう同じ手は通用しないからか、ウクライナ側は作戦が終わると、あっさりと手の内を明かしますが、これは心理戦のひとつでもありました。偽装コンテナを使っている以上、普通のトラックとは見分けがつかず、国内を走る全てのトラック、貨物が怪しくなります。

全てのトラックを検問したり、コンテナ荷物をしらみつぶしに調べれば、理論上は再発を防止できるでしょうが、それでは物流が止まってしまい、すでに危うい経済が死ぬだけです。

すなわち、航空機の炎上・大破のみならず、警備コストが一気にハネ上がり、経済的にも大打撃を与えました。

なお、地元の運転手を雇ったため、事情を知らぬまま現場まで走り、完全に使い捨てられました。一方、ウクライナの工作員は全員帰還したそうですが、このあたりは情報機関のクロさが出ています。

ウクライナの情報機関(SBU)といえば、あの旧ソ連のKGBをルーツに持ち、国際法的にアウトな手段を用いてきました。

今回の破壊工作も国際法違反ですが、ロシアが民間人への空爆を繰り返すため、その重度の違反行為を止めるべく、ウクライナも一時的にルール違反をしました。

これは「戦時復仇」と呼び、さまざまな条件が付きながらも、国際法的には認められた行為です。今回のケースでいうと、破壊工作という小さな違反により、無差別空爆という大きな違反を止める形です。

「やむなく」というのがポイントになり、その正当性の判断は難しいですが、いずれにせよ、今回の大戦果はSBUの手柄であって、彼らの影響力がさらに増すでしょう。

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