対中国の機動装備
アメリカが対テロから対中国戦に動くなか、米海兵隊も大幅な組織改編・装備刷新を行い、2030年までに島嶼戦向けの体制を目指します。「第二の陸軍」から本来の姿に戻るわけですが、その過程で戦車大隊を廃止しながら、高機動なロケット砲や対艦・対空ミサイルを配備予定です。
ロケット砲はウクライナで活躍中の「HIMARS(ハイマース)」、対艦ミサイルは無人車両の「NMESIS(ネメシス)」を採用しました。
そして、防空面では中距離・近距離用の2つを持ち、後者は「MADIS」なるものを導入しました。意外かもしれませんが、いまの海兵隊は携帯型の「スティンガー」しかなく、近年は防空能力が欠けている状態でした。
対テロ戦などであれば、歩兵携行型でも十分だったものの、中国を相手に島嶼戦を挑む場合、さすがに能力不足が否めず、急いで開発・配備した形です。
ペアで挑む統合防空戦
- 基本性能:MADIS防空システム
Mk.1 | Mk.2 | |
人 員 | 2〜4名 | |
速 度 | 時速100km | |
行動距離 | 約450km | |
兵 装 | 30mm機関砲×1 地対空ミサイル 電子戦装備 赤外線光学装置 |
7.62mmバルカン砲×1 電子戦装備 索敵レーダー 赤外線光学装置 指揮通信装置 |
価 格 | 1セットあたり約5億円 |
まず、MADISとは「Marine Air Defense Integrated System」の略称であって、日本語では「海兵隊防空統合システム」になります。
4輪駆動の統合軽戦術車両を(JLTV)使い、そこに防空システムを載せたものですが、「Mk.1」「Mk.2」の2種類でペアを組み、それぞれ違う役割を果たします。簡単に説明すると、Mk.1が実際の交戦を担い、もうひとつのMk.2が索敵・指揮する仕組みです。
それゆえ、両者の装備は大きく異なり、Mk.1は低空目標を撃ち落とすべく、30mm機関砲と電子戦機能に加えて、スティンガー・ミサイルを搭載しました。
一方、Mk.2は索敵レーダー、赤外線光学装置、指揮通信機能を備えるも、武装は電子戦機能と7.62mm機関銃のみです。ただし、小型ドローンの脅威を受けて、機関銃は6連のバルカン砲になっており、最低限以上の迎撃戦闘はできます。
両者とも対ドローンに重点を置き、以前のアベンジャー・システムと比べて、小型目標への対処能力が向上しました。
Mk.1(右)とMk.2(左)
また、対ドローンに特化した軽量版(L-MADIS)もありますが、武装を電子戦装備に限定した分、その威力は通常タイプより格段に強く、2019年にはイランのドローンを落としています。このとき、アメリカは強襲揚陸艦にL-MADISを載せて、ペルシア湾で迎撃したそうですが、本来ならば数十万円はかかるところ、わずか数百円のコストで無力化しました。
以上のように、索敵と指揮通信、電子戦、防空火器を組み込み、ペアで補完し合いながら、統合的な近距離防空を担うのがMADISです。
MADISは多層的な防空体制の一部にすぎず、海兵隊では中距離向けの「MRIC」、従来の歩兵携行型と連携させたうえ、主に低空目標への対処を任せます。しかも、軽戦術車両を使うことから、現場での機動性と生存性は高く、島嶼戦では機動展開しながら、神出鬼没の防空兵器になるでしょう。
海兵隊では131両ずつを調達して、計262両を導入予定ですが、すでに性能試験と評価は終わり、NMESISとともに前線配備が始まりました。

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