イージス・フリゲート艦
スペイン海軍といえば、かつては「無敵艦隊」を誇り、世界の海を制覇した存在でした。いまは覇権国の面影がないものの、地中海方面に限ってみると、それなりの海軍力を持ち、強襲揚陸艦と軽空母さえ保有しています。
フランス・イタリアとともに、NATOの地中海艦隊の一翼を担い、イージス艦を5隻も運用するなど、日本に次ぐイージス保有数です(西側限定)。
それが「アルバロ・デ・バサン級」ですが、これはフリゲート艦にもかかわらず、イージス・システムを組み込み、防空能力を一気に引き上げました。
- 基本性能:アルバロ・デ・バサン級
排水量 | 5,900t(基準) |
全 長 | 146.7m |
全 幅 | 18.6m |
乗 員 | 約200名 |
速 力 | 28ノット(時速52km) |
航続距離 | 約8,300km |
兵 装 | 5インチ速射砲×1 20mm機関砲×2 12.7mm機関銃×4 垂直発射装置×48(対空ミサイル×96) 対艦ミサイル×8 9連装短魚雷発射管×1 |
艦載機 | SH-60哨戒ヘリ×1 |
建造費 | 1隻あたり約1,200億円 |
スペインは1982年にNATOに入り、同盟各国と歩調を合わせながら、艦隊整備をしてきました。ところが、フリゲートの共同開発は上手くいかず、要求性能の違いを受けて、1995年には独自開発に舵を切ります。
スペインは軽空母がある以上、防空能力を重視せねばならず、これが空母がない国との差異を生み、優先順位で意見が食い違いました。その結果、アメリカのイージス・システムを採用して、2002年に「アルバロ・デ・バサン」を登場させました。
ちなみに、アルバロ・デ・バサンは人物名ですが、あの無敵艦隊の創設者であるほか、「スペイン海軍の父」と評される偉人です。
とにかく防空重視
スペイン初のイージス艦は日米とは違って、中央船楼型という独特の船体構造になり、艦橋の上にレーダーマストがそびえ立ち、SPY-1レーダーが設置されています。なお、レーダーの反射面積を抑えるべく、多くの構造物に傾斜を付けており、ステルス性を高めました。
中核のイージス・システムは一部機能を削り、分散化やコスト節約を図ったあと、ソフトウェアの更新にともなって、「ベースライン7」というバージョンになりました。
この改修で共同交戦能力、弾道ミサイルの探知・追尾能力が加わり、トマホーク巡航ミサイルにも対応しました。ただし、同じベースライン7の「あたご型」とは異なり、弾道ミサイルの迎撃まではできず、あくまで探知と追尾にとどまっています。
甲板に48個のミサイル発射基(VLS)を置き、長射程のSM-2対空ミサイル、中距離用のESSMを搭載しました。セル数は計48個とはいえ、ESSMは1個に4発収まるため、最大で「SM-2×32発、ESSM×64発」の陣容になります。
一方、対潜能力は限定されており、アスロック対潜ミサイルは備えていません。9連装の短魚雷発射管はあるものの、「潜水艦殺すマン」の海上自衛隊とは違って、防空面での優先と引き換えに、対潜能力では妥協した形です。さはさりながら、対潜軽視というわけではなく、機関部には振動を減らす装置を盛り込み、できるだけ水中雑音を減らしました。
また、対艦攻撃用に8発のハープーンを備えるも、ステルス性で突破力を高めるべく、近々「NSMミサイル」に更新予定です。
5隻は貴重な戦力
さて、「アルバロ・デ・バサン級」は他国と同じく、想定よりも建造コストがふくらみ、当初の6隻構想は実現できず、最終的には5隻体制になりました。
しかし、フリゲートのイージス化は意義が大きく、ノルウェーの「フリチョフ・ナンセン級」、豪州の「ホバート級」など、他国のイージス・フリゲートの原型になりました。
そして、NATO艦隊の貴重な戦力には変わらず、米英の空母打撃群を一角を占めたり、中東方面にも派遣されてきました。2025年にはイギリスの空母艦隊に加わり、アジアへの派遣航海に同行したところ、その4番艦が日本の横須賀に寄港しました。
これまで練習船の訪問はあったとはいえ、スペイン艦による寄港は珍しく、なんと131年ぶりだそうです。最近は日本とNATOの連携強化が進み、スペイン空軍も訓練で飛来なか、今後はスペイン海軍の寄港も増えるでしょう。
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