北欧のミニ・イージス艦
イージス艦といえば、アメリカを筆頭に日本、韓国などが持ち、それなりの海軍力のある国が使うイメージです。しかし、実際にはオーストラリア、スペインに加えて、北欧のノルウェーも運用してきました。
あまり知られていないものの、ノルウェー海軍は沿岸防衛を主眼に置き、高速・小型艦を中心にしながらも、あのイージス艦を4隻も保有しています。
今回はその知られざるイージス、「フリチョフ・ナンセン級」を見ていきましょう。
- 基本性能:フリチョフ・ナンセン級フリゲート
排水量 | 4,680t(基準) |
全 長 | 132m |
全 幅 | 16.8m |
乗 員 | 120名 |
速 力 | 26ノット(時速48km) |
航続距離 | 約8,300km |
兵 装 | 76mm速射砲×1 12.7mm機関銃×4(遠隔操作) 垂直発射装置(VLS)×8 – ESSM対空ミサイル×32 NSM対艦ミサイル×8 短魚雷発射管×4 |
艦載機 | 哨戒ヘリ×1 |
建造費 | 1隻あたり約700億円 |
ノルウェー海軍は1990年代に近代化に取り組み、特に外洋作戦に対応した現代戦闘艦が急務でした。
そこで、同じNATO加盟国・スペインのイージス艦、「アルバロ・デ・バサン級」を参考にしながら、2006年に「フリチョフ・ナンセン」を建造しました。その艦名はノルウェーの探検家にちなみ、以降の同型艦も全て探検家からとりました。
スペイン艦をベースにした以上、両者の見た目は似ており、基本設計は引き継ぎました。中央にはレーダーの構造物がそびえ立ち、その外見は日米のイージス艦とは違います。
また、レーダー反射面積を減らすべく、甲板上の構造物に傾斜をつけるなど、ステルス設計を取り入れました。
一方、イージス・システムからは艦隊防空能力を省き、あくまで個艦・僚艦防空に限定しました。他のイージス艦と比べると、レーダーの探知範囲も狭く、約40〜50%の能力に抑えられました。
これはノルウェーの運用思想に基づき、一定の防空能力を確保しながらも、対潜・対水上戦を重視したからです。
すなわち、艦隊全体を守る能力は求めず、その分だけ対潜・対水上との両立を図り、バランスのよいフリゲートを目指しました。
その実態は「ミニ・イージス」であって、SM2などの長射程の対空ミサイルはなく、32発のESSMミサイルが頼りです。これらESSMで自艦と僚艦(1〜2隻)を守り、国産のNSMミサイルで反撃します。
対潜面では短魚雷に加えて、固定式・曳航式のソナーを持ち、対水上戦の兵装とともに、独自の戦闘システムに統合しました。それゆえ、イージス・システムのみならず、国産の対水上・対潜システムも組み込み、独自色の強いミニ・イージス艦になりました。
なお、機械室の無人化など、高度な自動化により、5,000トン級の船にもかかわらず、乗員数は120名に抑えました。
事故で1隻を失う
イージス・フリゲートとして考えると、総合的には高い能力を誇り、ノルウェー海軍を一気に近代化させました。本来は5隻のイージス艦を中心戦力に置き、ミサイル艇と高速哨戒艇で沿岸警備を担うはずでした。
ところが、2018年にタンカーとの衝突事故が起こり、4番艦が沈没を避けるべく、そのまま浅瀬に乗り上げました。それでも、艦の大部分は海に沈み、修復費が新造コストを上回ることから、最終的には引き揚げていません。
ノルウェーは貴重な1隻を失った結果、その艦隊戦力は大きく落ち込み、世界初のイージス艦の喪失にもなりました。代替艦を建造する動きはなく、4隻体制での運用を余儀なくされています。
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