他国とは扱いが違う
トランプ大統領といえば、物議を醸す言動に加えて、コロコロと態度が変わり、予測不可能な人物とされています。
本来は味方のNATO諸国に厳しく、仮想敵国のロシアには異常に甘いなど、まさに戦々恐々すべき相手であって、日本に対しても「不満」を示してきました。定期的に日本との貿易赤字、日米同盟の不平等性に言及しており、別に日本が好きではありません。
ところが、日米首脳会談では直接的に不満は言わず、なぜか無事に乗り越えてきました。
直近の会談においても、日本側の心配をよそに、ホルムズ海峡への自衛隊派遣を求めず、逆にNATOと比較したあげく、日本を持ち上げました。
トランプは実際に会えば、面と向かっては言わないとされるが、ウクライナのゼレンスキー大統領のように、マスコミの前で言い争いを繰り広げたり、裏で決裂することは十分にあり得ます。
日本に対して思うところはあれど、NATO・欧州諸国と比べて「甘さ」が目立ち、意外で不気味な感じがします。
では、なぜトランプは日本に甘いのか?
そこには3つの理由がありました。
日本はポリコレを広めない
まず、日本は欧州諸国と違って、自分の価値観を広めず、相手に押しつけません。
ヨーロッパは自由・民主主義を旗印に持ち、人権や平等の重要性を説いてきました。近年は女性の権利擁護、性的マイノリティの尊重など、リベラルな価値観が広がり、西欧を中心にEU基準として注力しました。
しかし、寛容を掲げたにもかかわらず、価値基準の「正しさ」を決めてしまい、逆に政治・社会的な許容範囲を狭めました。いわゆる「ポリコレ」ですが、それは従来の価値観の否定につながり、各地で保守派との衝突を招きました。
リベラルの波はアメリカにおよび、都市部を中心にポリコレが浸透しました。その結果、都市部と地方の乖離、リベラルと保守派の対立など、アメリカ社会の分断が進み、トランプ現象と土壌になりました。
当然、トランプとその支持層はポリコレを嫌い、リベラル左派を目の敵にします。そして、欧州がその普及に加担する以上、押しつけてきた元凶に映ってしまい、少なくとも良い印象は持ちません。
一方、日本はどうでしょうか?
独自の文化的・社会的価値観はあるものの、それをよそに広めようとはせず、むしろ普及に興味がありません。80年前にアジアに「布教」しようとして、国が焦土化した経験からか、「うちはうち、よそはよそ」の意識を持ち、別に相手に押しつけません。
他国に押しつけない代わり、自分たちの価値観を守るため、欧米ほどポリコレが浸透せず、これがアメリカの保守層と親和性が高く、彼らの好感を呼びました。アメリカの保守派からすると、日本の姿勢こそ現代にふさわしく、パートナーとして適切な距離感であるほか、自分たちの考えと共鳴します。
もちろん、日本はそのように意図しておらず、ありのまま過ごしていたら、相対的に好感度が上がった形です。そして、欧州との対比が強く浮かび、同じ保守派のトランプに影響しました。
日本がポリコレを追求せず、リベラルな価値観を押しつけない限り、トランプにとっては欧州より好ましく、自分の思うアメリカ社会(保守層)には「無害」です。
外交は多数の国が関わる以上、そこには一定の相対評価が働き、首脳の考えや政策にも作用します。この点、日本はトランプ脳内において、欧州よりは好感度が高く、やや有利な立ち位置です。
「シンゾー」の遺産
次は、安倍晋三の遺産(レガシー)です。
周知のとおり、トランプは故・安倍晋三と仲が良く、同じ首脳・ゴルフ仲間として、特別な友好関係を築きました。その関係性は他国と比べても、明らかに抜きん出ており、日米首脳間の個人関係でいえば、過去最高の親密ぶりでした。
いまも日本の話題になると、「シンゾーは素晴らしかった」と言い、単なる外交上の演出ではなく、本当に友人だったのが分かります。
外交は国益が最優先とはいえ、首脳もひとりの人間である以上、相手との関係性は軽視できず、時には交渉を左右してきました。
同じ頼みごとにしても、あまり仲良くない相手には頼みづらく、逆に気心の知れた友人なら、何かと依頼しやすいのが人間です。
首脳会談でも似た心理が働き、ウマが合わない人とは会話が弾まず、友人相手とは交渉が進展しやすいです。たとえ火種を抱えていても、友人なら着地点を探りやすく、国家間対立の衝撃を緩和できます。
特にトランプ大統領は歴代政権と違って、自分の意向がそのまま政策になり、個人関係の重みは無視できません。
安倍首相の在任期間をふり返ると、異質なトランプ政権の出現にもかかわらず、日米関係は比較的「無事」に収まり、米欧関係とは対照的でした。
国益に基づく打算があるにせよ、やはり安倍・トランプの関係が有利に働き、日米関係を安定させたのは事実でしょう。その遺産は安倍晋三なき現在も続き、対米関係で効力を発揮してきました。
日本との会談・交渉になると、たとえ相手が石破でも、高市であっても、トランプの脳内では「シンゾー」が浮かび、仲良かった亡き友人の国、という好意的印象が形成されます。
歴代大統領に比べて、個人的な心情で動きやすく、気持ちが政策に反映されるなら、シンゾーの影響力は小さくありません。
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