海に浮かぶ大病院
アメリカは世界各地に軍隊を展開させることから、遠隔地でも十分な医療体制を整えねばならず、その手段のひとつが病院船です。
病院船といえば、第二次世界大戦では日米を中心に多く活躍したものの、現代では珍しい存在になりました。実際のところ、現在のアメリカが持っている病院船は2隻しかなく、それぞれ「マーシー(慈悲)」「コンフォート(癒し)」と名付けられました。
- 基本性能:マーシー級病院船
排水量 | 69,360t (満載) |
全 長 | 272.5m |
全 幅 | 32.2m |
乗 員 | 1,200名以上 |
速 力 | 17.5ノット (時速32.4km) |
航続距離 | 24,800km |
価 格 | 1隻あたり約200億円 |
「マーシー級」は世界最大の病院船であるのみならず、地上の総合病院も超える医療機能を持っています。2隻とも約200億円かけて民間タンカーを改造したもので、その船体規模を使って大量の患者を収容できるのが強みです。
戦時運用を想定した船内には、以下のような医療設備が整えられました。
- 1,000床以上のベッド(うち80床が集中治療型)
- 火傷治療室
- 手術室×12
- CTスキャンなどの放射線設備
- 歯科、眼科設備
- 輸血用血液のバンク
また、自己完結能力も重視したところ、自家発電による電力供給に加えて、酸素や医療用ガス、130万リットル/日の真水も作れます。
そんな「マーシー級」はアメリカ本土の東西に1隻ずつ配備されており、普段は少数の民間スタッフでメンテナンスしながら待機します。
一方、毎年行われる約1週間の外洋点検では、医療スタッフとその支援要員として1,000人以上の将兵が乗り込み、その召集から出航までにかかる時間はおよそ5日です。
コロナ対応から途上国支援まで
そもそも、軍隊とは自己完結を目指す組織ですが、野戦病院では能力が限られるケースが多く、展開地域や作戦規模によっては病院船が欠かせません。
「マーシー級」も湾岸戦争とイラク戦争に投入されており、本来は失いかねない命を多く救ってきました。砂漠地帯では十分な医療体制をいきなり整えるのが難しく、搬送された多数の傷病兵を治療したり、本国へ後方移送するのに使われました。
ほかにも、災害派遣任務や医療設備の乏しい島嶼国への巡回を行い、アメリカのプレゼンスを示す役割も果たしています。
ロサンゼルスに入港する「マーシー」(出典:アメリカ海軍)
さらに、2020年の新型コロナウイルス流行時では、ニューヨークとロサンゼルスにそれぞれ展開しました。
コロナ禍で100万人以上の死者が出たアメリカですが、とりわけ都市部での感染者数がすさまじく、現地の病院がパンク状態になりました。そのため、大きな収容能力を持つ病院船を投入せざるをえず、結果的になんとか両都市の医療体制を崩壊から救いました。
コメント