日英伊による共同開発
航空自衛隊が運用している3つの戦闘機のうち、F-2戦闘機に関しては2035年頃から順次退役するはずです。
このF-2はアメリカの圧力によって、国産開発から日米共同開発になった苦い経験があるゆえ、後継機は最低でも日本主導の共同開発にこだわりました。
ちなみに、F-2の後継機ということで「F-3」という言葉がひとり歩きしていますが、防衛省は「F-3」という名称を一度も使っておらず、正式名称は「次期戦闘機」です。
この次期戦闘機はアメリカのロッキード・マーチン社から技術支援を受けつつも、F-2を担当した三菱重工業が開発するはずでした。
ところが、2022年には一転してイギリスとイタリアとの共同開発に変更されます。これにともない、計画名も「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」に変わりました。
この背景には、開発を巡るアメリカとのタイミングの不一致がありました。
日米両国は次期戦闘機の必要性は理解していたものの、その開発時期に認識のズレがあったようです。これに対して、「テンペスト」という独自計画を進めていたイギリス、同じく次期戦闘機を模索していたイタリアとはタイミングが合いました。
イギリスは欧州勢・NATO諸国のうち、もっともアジア太平洋に関心を寄せており、日本とは「準同盟」にあたる関係です。そして、開発時の制約が多いアメリカと比べて、より柔軟な対応と対等な関係性を期待できます。
一方、イタリアも優れた兵器を生産する企業が多く、たとえば「こんごう型」イージス艦の主砲はイタリア製です。
あまり知られていませんが、イタリアは航空分野には強く、空自も戦闘機パイロットの教育を同国の養成施設に委託しています。よって、その技術力や知見は今回のGCAP計画にも役立つはずです。
GCAP計画には日本の三菱重工業、イギリスのBAEシステムズ、イタリアのレオナルド社などが参加予定で、順調に進めば2035年頃から配備が始まります。
また、こうした共同開発は各国の技術力を反映しながら、独自改修も許されやすく、コスト分散も図れるメリットがあります。
日本の主体性を確保しやすいパートナーに選んだなか、アメリカも完全撤退ではなく、情報共有システムなどでの分野では協力を続けるそうです。
もはや国力が衰えつつあるアメリカにとっては、同盟諸国が協力して防衛力を高めるのはむしろ歓迎すべきことなので、今回の件も全く反対していません。
現時点で懸念があるとすれば、サウジアラビアがGCAPへの参加に希望していることです。
サウジは豊富な資金力を持ち、その参入はコスト面では歓迎すべきかもしれませんが、イギリスとイタリアが前向きのなか、日本政府は意外にも反対しました。
その理由は2035年までの開発完了が危ぶまれるからです。
しかし、石油の3割以上を頼るにもかかわらず、計画遅延だけを理由に反対するでしょうか?
実際には、もっと深い理由が背景にあると思われます。
まず、サウジアラビアはイスラム教・スンニ派の盟主であるため、同じ中東の軍事大国でシーア派盟主のイランとは敵対関係にあります。
もしサウジがGCAP計画で最新戦闘機を手に入れたら、軍事バランスの不均衡に加えて、日本とイランの関係悪化まで招きかねません。
西側陣営にいながら、イランと友好関係を維持してきた日本にとって、こうした中東のいざこざとは距離を置きたいのが本音でしょう。
さらに、日本はサウジとは良好な関係を築いているものの、基本的人権などの価値観は共有していません。ビジネスパートナーには利益、理念、方向性などの共通認識が求められますが、日本としては価値観を含む「理念」の部分が引っかかっているのかもしれません。
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