世界的にも珍しい独自能力
さて、潜水艦を運用する国は多けれども、高価な潜水艦救難艦とDSRVをセットで持てる国は少なく、日本は世界的にも珍しい救難体制を確立しています。
たとえば、欧米各国はNATO内で共同システムを作り、かつては救難艦を保有していたアメリカも、いまはDSRVのみを別の潜水艦に乗せて救出に向かわせる方式に転換しました。
すなわち、日本は単独で潜水艦救難艦と120億超えのDSRVをそれぞれ2隻も保有している珍しい国ですが、これは味方を見捨てないという決心の表れでもあります。
海中で活動する潜水艦は事故や被弾時の生存率が低く、救難体制の確立は乗組員の士気や安心感に直結するものです。
仮に絶望的な状況であっても、「助けに来てくれる」体制さえ整っていれば、微かな希望を見出せます。そして、こうした心理的影響が非常時では生死を分け得るのです。
体制を揺るがす不正事案
ところが、この海自が誇る救難体制を揺るがす事態が起きました。
それが2024年に発覚した潜水手当の不正受給問題です。
防衛省が調査した結果、潜水艦救難艦に所属する74名が関わっていたことが判明しました。潜水手当は潜る深さによって支給額が変わり、一連の不祥事ではその深度を水増ししたり、訓練していないにもかかわらず、あたかも実施しようにしていました。
その不正受給額は6年間で計4,300万円になり、74名のうち11名が懲戒免職になりました。
規律を重視すべき軍事組織で不正は許されず、厳正な処分は仕方ありません。
しかし、潜水手当そのものが低いという側面もあります。
それは深度20mまでならば、1時間あたりわずか310円という金額です。通常の潜水艦が活動する深さ300〜400mでさえ約8,000〜11,200円となっており、文字通り「命を懸けた」仕事のわりには低く感じます。
このあたりは不発弾処理の手当にも通ずるものがありますが、この先も人員を確保するならば、やはり全体的な待遇改善が欠かせません。
不正受給に対する処分は当然ながらも、貴重な救難艦で11人も免職になったのは、国防体制にとって大きな痛手です。
上下関係の厳しく、事実上の軍隊である自衛隊において、下から支給額の引き上げを要請するのは難しく、このあたりは政治家、ひいては国民全体がその要望をくみ取るべきでしょう。
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