使いやすく、撃ちっ放し
歩兵は戦車や航空機に比べて圧倒的に弱い立場にあるものの、個人装備の火力が大きく進化したおかげで、もはや一方的に狩られる存在ではなくなりました。
たとえば、ロシア=ウクライナ戦争でジャベリン対戦車ミサイルの有効性が証明されたように、携帯式ミサイルを操る歩兵は決して侮れません。
そして、これは航空機との関係においても同じで、ヘリコプターのように低空飛行する機体は携帯式地対空ミサイルの餌食になりやすく、なかでも性能と実績でズバ抜けているのがアメリカの「スティンガー」です。
- 基本性能:FIM-92 スティンガー
全 長 | 1.52m |
直 径 | 7cm |
重 量 | ミサイル本体:10.1kg システム全体:15.2kg |
弾 頭 | 1.02kg (高性能爆薬) |
速 度 | マッハ2.5 秒速750m |
射 程 | 4,800m |
高 度 | 3,800m |
要 員 | 2名(1名でも可能) |
価 格 | 1発あたり約1,400万円 |
英語で「毒針」を意味するこのミサイルは、アメリカが1981年から使っている携帯式の防空ミサイル・システム(MANPADS)で、最高峰の携帯式防空兵器として日本を含む30カ国以上で採用されました。
日本の陸上自衛隊が導入したものは、すでに国産の91式携帯地対空誘導弾に更新されましたが、ミサイルそのものは「AH-64」アパッチ攻撃ヘリの空対空装備として現役です。
スティンガーはミサイル本体に加えて、発射機とバッテリー、冷却装置、カゴのような形をした敵味方識別装置(アンテナ)で構成されていて、その総重量は15kg以上になります。
そして、大まかな使い方は以下のとおりです。
- ミサイルを使い捨てコンテナから取り出して発射機に装填。
- 発射機にバッテリーと冷却装置を取り付ける。
- 目標を目視で確認した後、電源を入れてロックオンする。
- 引き金を引いてミサイルを発射する。
シンプルな操作手順ですが、射手への危害を防ぐべく、ミサイルは小型ブースターで数メートル飛んでからロケットモーターに点火して、最大マッハ2.5まで加速します。
その後、赤外線センサーでエンジン排熱を捉えながら自動追尾するため、射手は敵の反撃を受ける前に退避できます。
このように簡単な操作方法にもかかわらず、撃ちっ放し能力があるのが魅力です。
高い運用実績と命中率
スティンガーの戦果については、1982年のフォークランド紛争でイギリス軍がアルゼンチン機を撃墜したのが最初といわれるなか、その名を世界にとどろかせたのはソ連=アフガン戦争でした。
ソ連のアフガン侵攻と戦うイスラム義勇兵に向けて、アメリカから大量のスティンガーが供与されたわけですが、ここで誰でも航空機を撃墜できることが証明されました。
その後もスリランカやシリア内戦で数機を撃墜しているほか、航空優勢を望めない反政府勢力にとっては貴重な防空手段になりました。
一方、開発したアメリカも多数装備していますが、いつも完全な航空優勢下で戦ってきたことから、実際に使う機会はほとんどありませんでした。むしろ、以前供与したスティンガーを敵に使われるという皮肉な逆転現象が起きています。
さて、命中率についてはいろんな数値があるなか、少なくとも現存する携帯地対空ミサイルのなかでは圧倒的な精度を誇るという点では評価が一致していて、最も命中率が高いとしてギネスブックに載ったことさえあります。
具体的な数値としては70〜80%と言われているものの、これはスティンガーが注目を浴びたソ連のアフガン侵攻時の戦果がベースになっているため、イスラム義勇兵側の自己申告に基づくこの数字は信憑性が怪しいのは否めません。
それでも、ソ連軍ヘリを多く撃墜した事実は変わらず、その後も改良を施されていることから現在も50%以上の命中率は発揮できるのではないでしょうか。
現在、ロシア=ウクライナ戦争でNATO諸国からウクライナに対して2,000発以上のスティンガーが供与されており、ロシア側の攻撃ヘリや戦闘機、自爆ドローン、巡航ミサイルを撃墜している様子が確認されています。
実際に撃墜されたロシア軍機のうち、スティンガーによる戦果がどれほどなのかは不明ですが、今後その実情が明らかになるにつれてスティンガーの評価も変わるでしょう。
このように豊富な運用実績があるスティンガー・ミサイルをアメリカは車両や航空機、艦船にまで搭載して近距離防空の主力として扱っています。同じミサイルを使ったアベンジャー近距離防空システムにいたっては、NASAMS中距離防空システムとともにホワイトハウスの防空を担っているほどです。
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